天国へようこそ - 4/4

搭乗手続きを終えた玲太くんがロビーで待つわたしの元へ手を振りながら歩いてくる。
わたしは彼の大きなキャリーケースや手土産の紙袋に埋もれそうになりながらソファに座っていた。
「荷物預けたら、そろそろ行くよ」
彼が腕時計を見ながら言った。確かにもう搭乗まであまり時間がなかった。

わたしが立ち上がると、彼がぎゅっとわたしを抱きしめた。
「いってらっしゃい」
「…いってきます」
彼は相変わらず寂しそうだったけど、昨日よりは幾分か表情が明るかった。

「外出する日は、ちゃんと21時には家に帰って俺に連絡すること」
「はい」
いつもの調子でお父さんみたいに言うから、わたしは吹き出しそうになるのを堪えて返事した。
彼も釣られて微笑み、そっとお腹に手を置いて、わたしの耳元でささやいた。
「それから念のため、お酒は飲まないこと」
「はい」

最後に長いキスを交わし、彼はイギリスへと旅立っていった。
何度も何度もふりかえり、わたしに手を振りながら。

小さくなっていく彼の背中を見ているのは本当はすごく寂しかった。けれどわたしはそれを胸にしまって駐車場へと歩き出した。

3週間後、彼とまた日本で再会できるのを心待ちにしながら。

***

それからちょうど1ヶ月後に、彼はわたしからちょっとしたサプライズを報告されることになるんだけど――それはまた、別の話。