天国へようこそ - 3/4

「ほら、もっと奥まで咥えて。そう…いい子だ」
玲太くんに髪を撫でられる。
わたしは裸で跪き、ソファに腰掛ける玲太くんのペニスをしゃぶっていた。
他の人のなんて見たこともないけど――玲太くんのそれは、たぶん大きい方だ。だからわたしはついぞそれを最後まで咥え込むことはできずにいた。

中に入ってる時だって、それはいつもわたしを好き勝手に蹂躙した――もう、めちゃくちゃなやりかたで。
こちらが何も考えられなくなって、はしたない声をあげて彼に子種を乞う姿を、いつも玲太くんはゆらりと笑って眺めていた。

でも、彼と抱き合うのは他のことなんてどうでも良くなるほど気持ちがよかった。
大学の友人が、恋人との行為に漏らしていた不平不満など、微塵も感じたことがない。
わたしと玲太くんは、どうしようもなく相性が良かった。

玲太くんのペニスを懸命に咥え込み、彼の気持ちいいところに舌を添えて、時折手で刺激を与えながら扱いていく。

ときおり玲太くんが耐え難い快感に身を震わせているのがちょっぴり可愛らしい。
自分の姿が撮影されていることを忘れて思わず微笑んだ。

すると、どうだろう。
玲太くんのものがむくむくと大きくなって、やや興奮気味な彼はぐっと腰をわたしの咥内に打ち付けた。
「んぅ…」
喉が圧迫されて、乾いたうめきが漏れた。
「あぁ……」
玲太くんは恍惚とした表情で涙目のわたしを見るなり、何度か緩くピストンを打った。

未だかつてないほどに奥まで挿入された苦しさで、胃液が込み上げてくる。

「〜っ!!かはっ」
思わず彼の下半身を押し返し、酸素を肺に送り込む。
「ゴホ、ゴホッ」
わたしは唾液を垂れ流しながら咳き込んだ。
「……えっろ…」
玲太くんは放心したようにぽつりとつぶやいた。

「もう!苦しいってば!」
わたしが怒ると、彼は素直に謝った。
「ごめん。嬉しすぎて調子のった」
「次やったらほんとに怒るからね!」
「はーい。もうしませーん」

玲太くんはわたしをギュッと抱きしめて、幸せそうに両頬にキスした。
そのときの微笑みがあんまり心の底から嬉しそうだったから、思わず心臓がずきりとした。

だから、なんとか彼を元気付けてあげたい、愛しているよって、もっと全身全霊で伝えたい――そんな気持ちに駆り立てられる。
それが彼の思惑通りだったとしても構わない。
彼が心から微笑むためにわたしの愛が必要だというのなら。

再び口に含もうとするわたしを彼が制し、長い愛撫が始まった。
もう待てない、ということだろう。
彼がその華奢な長い指をわたしのなかに挿しこめば、自分でも恥ずかしいくらい濡れていた。
「撮られて興奮したか?」
耳元で囁かれて、得意げな顔にちょっぴり反抗心が湧く。
「ちがう……ぁっや」
けれど、わたしの身体を知り尽くしている彼から与えられる刺激にただ劣情が掻き立てられていく。

「なあ…そろそろ、いいか?」
荒い吐息が耳にかかった。
彼の聳り立つペニスが下腹部の上に長い影を落としている。
それをカメラは捉えているだろう。
わたしはこの異様な空気に少しずつ慣れ始めていた。
「うん…来て」

濡れそぼった声が彼を誘って、硬い硬い彼のペニスのぷっくり柔らかい先がわたしの子宮にキスした。

今のわたしたちには、コンドームを着ける工程によって生まれるセックスの余白が必要ない。
ただ感情の昂りと同時に彼の律動を感じられるのは楽園みたいな心地がした。

ソファに置かれているクッションの端を掴んで、好きなだけ声を上げて、ペニスに子宮口を舐るように突かれる心地を愉しむ。
これは玲太くんに、夫婦になってから幾度となく覚え込まされた愉しみかただった。

「いつもより積極的だな」
楽しげに弾んだ声で彼は言った。
「玲太くんこそ」
負けじと言い返すと、唇の中に彼の厚い舌が潜り込んできた。
舌を吸われながら、彼の薄く開いた瞳の中の赤に見惚れる。
「じゃ、まだまだ余裕ってことか?」
彼は唇を離してすこし上体を起こすと、わたしの背中に手を回し、わたしも身体を起こすように促された。
「…?!」
言葉もなく驚いていると、ずるりと彼のが抜かれた。
彼はカメラに向き直ってソファに腰掛けた。
そしてわたしは彼に手を掴まれて「この上に股がれ」と指示される。
わたしはすっかり忘れかけていた羞恥がまたふつふつと湧き起こって頭痛と眩暈がした。
「このうえ…って」

つまり、カメラにすべてを露わにしながら乱れろということか。
「頼むよ」
またいつものあの調子で懇願する。
側から見ればこんなはしたないことを妻にさせようとしているようには見えない、涼しげな憂いを帯びた美しい顔で。
ふと、高校時代に彼を取り巻いていた女子たちが彼を「若様」と呼んで騒いでいたことが脳裏に蘇る。
さっきまで頭の中は羞恥でいっぱいだったのに、わけもなく嫉妬心が芽生えた。

――玲太くんはわたしの、だ。

彼の愛情も劣情も嫉妬もぜんぶわたしのもの。だからわたしだって、自分のすべてを彼にあげたのだ。

わたしが意を決して彼の膝の上に腰を落とすと、彼は待ってましたと言わんばかりにわたしの両腿をそれぞれの手で掴んでがっしりと固定した。

両足を観音開きにさせられて、目も当てられない光景が撮影されていることは逃れようもない事実だった。
しっとりしたふたりの秘部が空気に晒されてひんやりする。
カメラが撮影中であることを示す赤いランプが無情にも点滅し続けている。
わたしがそれを見てごくりと喉を鳴らすと、
「恥ずかしいなら俺だけをずっと見てろ」
と、耳元でざらついた彼の声がした。

わたしが振り返るようにして背後の玲太くんを見つめると、ぎらぎらした視線と目が合う。
彼のペニスがパン、パンとはしたない音を立ててわたしの中を蹂躙し、絶え間ない律動に塞いだ唇の隙間から抑えきれない声が漏れた。
自重がかかって抽送が深い。
わたしは背中をのけぞらせて何度も果てた。

「奥、すごく吸い付いてくる。これから毎回こうしてカメラをまわそうか」
「ぁい、やっ…やだっ…!」
「こんなにびしゃびしゃに濡らしてるのに?」
彼の指がクリトリスをつまみ出し、指の腹でゆっくりと転がし始める。
わたしは不意打ちに身体をびくつかせた。心地良すぎて――もう正直、限界が近い。
「淫乱」
蔑むような彼の言い草に、身体がゾクゾクしてしまう。
「昔はクリでしかイけなかった癖に」
「それ、はっ…玲太くんが…」
「そうだな。俺が全部お前に教えた」
彼は満足げにわたしの下腹を撫ぜた。

そのあと、激しく突かれてもう何度目かもわからない絶頂を迎えた時、くったりしたわたしの身体を玲太くんが優しく抱えてソファに横たえた。

荒くなった息を整えていたら、口移しで水を飲まされた。
水分補給はすぐに欲情したキスに早変わりした。
玲太くんのがもう待てないと言わんばかりにわたしの入り口をぐちゃぐちゃなぞっている。
わたしは来るべく衝撃に身を備えた――が、一向にそれは来なかった。

ぎゅっと瞑っていた目を開けて彼の方を見る。すると彼は苦しげな表情のままうっすらと微笑んでいた。
「お前から、求められたい」
わたしの視線に気づくなり、彼が言った。

彼が本当は何を言って欲しいかなんてわかっていた。だけど、何となく釣れない態度をとってみる。

「…来て」
玲太くんは不満げに眉をひそめた。
「どうされたいか、言って」
「…挿れて、ほしい」
「挿れて、どうして欲しい?」
彼はわたしの手をソファに押さえつけたまま獣のような目つきでこちらを見ていた。
もう、この世のどこにも逃げ場はない――そう言われているような気がした。
こちらが躊躇っている間も彼は物欲しそうにぐちゅぐちゅと腰を揺らしている。
わたしは痛いほど昂っている心臓の鼓動に急かされて、泣きたい気持ちになりながら懇願した。
「挿れてっ…おく、ぐちゃぐちゃにして…くださいっ」
玲太くんは目を細めて唇の端をぺろりと舐めた。
「挿れて、奥ぐちゃぐちゃにされたあと、どうされたい?」
彼の親指がわたしの下腹部をそうっと焦らすように撫でる。

ああ、今のわたしはまるで袋の中の鼠、蛇に見入られた蛙。
彼が満足するまで好き勝手に翻弄される獲物のようだった。
けれどわたしの方こそ、こうして彼から苦しめられるのがたまらなく好きなのだから、やりきれない。

キュウと唇を噛んで恥ずかしさを堪えた後、口許に近づいた彼の耳たぶを舐め、言った。
「なかに、いっぱいだして…」

彼は満足げに微笑んで、ズンと一気に私の胎内に己を沈めた。
「よくできました」
わたしの両目からはポロポロと雫が溢れた。
恥ずかしかったのと、もうこれ以上ないくらい気持ちいいのとで頭の中がぐしゃぐしゃだった。
玲太くんの熱い舌がわたしの涙をそっと掬う。

「愛してるよ」
その声色が本当に幸せそうで、わたしは安堵した。

「今でもときおり、信じられないんだ――お前とこうして、夫婦になれたなんて」
彼はわたしの肩に手を置いてぎゅっと抱きしめた。
「俺には、お前だけなんだ。本当に、今も昔も――」
わたしは彼の瞳を見上げた。
恍惚だとか愉悦だとか、そんな言葉すら物足りなく感じてしまう。
すがるような彼のまなざしが、ただひとりわたしだけを捉えている。

その事実がどうしようもなく欲情を掻き立てた。

「玲太くん、愛してるよ」
熱い舌同士を絡め合う。玲太くんはキスの最中すらも、一瞬を惜しんでいるかのように目を閉じない。
じっとりした目つきでこちらの様子を伺っている。
わたしは切れ切れになった呼吸のままに言葉を吐き出した。

「もっといっぱい、玲太くんがほしい」
「――! ああ…」

抑えが効かなくなった彼の身体がわたしの上にのし掛かり、何度も激しく腰を打ちつける。
柔らかい場所をぐりぐりと蹂躙され、耐えきれなくなった嬌声がリビングの壁に反響する。
ああ、お隣さんに聞かれていませんように――と、このところ毎日祈っている気がする。

「そろそろ、出る…」
苦しげに玲太くんが言った。
わたしは彼の頬を両手で包み込む。
「いいよ、出して…」

すると、手を掴まれてまたソファの上に押さえつけられた。
「なあ、赤ちゃん欲しいって言って」
燃えるように赤い瞳がわたしを見下ろしている。

彼はいつも情事の終わりにこの科白を求めた。
だからこれはいつものお決まり文句みたいなものだ。
ふだんなら、全くもう仕方のないひとだ――と心の中で悪態をつきながら、頬を赤らめて彼に乞うただろう。

けれど、今のわたしにとってそれは切実な願いのようなものでもあった。
言葉にしようとすると、なんだかぎゅっと胸の奥が締め付けられた。

「ほしいよ、ずっと前から」
わたしの言葉に、玲太くんは驚いたようにハッと目を見開いた。
「玲太くんとの赤ちゃんがほしい」
彼の瞳からはすっかり毒気がぬけていて、少し泣きそうな顔をしていた。
「玲太くんと夫婦になれて、よかった」
そこまで言うと、また唇を塞がれた。
今度は溶けそうなほどやわらかくて優しいキスだった。

それから彼はゆっくりと果てた。
長い射精のあとわたしの身体の上にうなだれた彼は、しばらくわたしを抱きしめたまま離れようとしなかった。