エデンの歌、春に咲く花 - 4/5

初めてのセックスだから、もっと優しくしようと思っていたのに。

「あぁあっも、もう無理っ!や、あ」
逃げるように浮いた彼女の腰を容赦なく掴み、ズ、と奥まで己を沈める。
入念すぎるほど執拗に解き解したそこはぐずぐずに柔らかい。
「嫌?はしたなくよだれを垂らして何度も達しているのは誰?」
「はっ…だ、だって、やのすけく、やすませてくれないからぁっ」
「その方があなただって善いくせに」
うつ伏せに寝そべっている彼女の上にのしかかり、彼女の一切の身動きを封じて容赦なく腰を撃ち続ければ、もう何度目かもわからない絶頂に達した彼女が声にならない叫びを上げて身体をふるわせた。

彼女のくちゃくちゃになった後頭部の髪の毛を掻き分けて、その形の良い耳の在処を探り当てる。
ふと、彼女の細い首筋や白いうなじ、妖精の耳のようにツンとした形が可愛い小さな耳を眺めていると、「彼」と親しげに耳打ちしあう彼女の姿に激しい嫉妬を覚えた記憶が胸の内にぐらぐらと蘇ってくるのを感じた。

ただ、彼女をもっとめちゃくちゃにしてやりたい。
そう思った。

れ、とその耳の輪郭を舐めればその感触に彼女は肩をびくつかせた。
上がった息が苦しげに漏れ聞こえる。
僕は少しの間だけ、自制するのをやめて嫉妬心を野放しにしてみることにした。

「風真くんに触れられたところ、ぜんぶ教えて?」
僕が言えば、彼女の熱っぽい瞳にわずかな戸惑いの色が見え隠れする。
「そ、そんなの覚えてな…」
彼女が言い終わらぬうちにその細い腕をぎゅっと掴む。
「そうだね。まずは手のひらだ。あなたはいつも無防備に彼に手を握らせていたから」
「ひゃっ」
僕は彼女の手の甲にちゅ、と口付けて指と指の隙間に舌を這わせる。

背中や首、肩と、記憶するかぎりすべての箇所に噛み付いてキスマークをつけた。
彼女はそのたびにはしたない声をあげて身体を震わせた。

「あとは、膝かな。体育祭で負傷した時、彼に手当をさせていたから」
彼女の身体を仰向けにさせ、再び容赦なく中に己を沈めたあと、彼女の膝を抱くようにしてまた肌に口付ける。
今度は膝小僧から膝裏まで、入念に。
「ご、ごめんなさ…」
震えている彼女の瞳には涙が浮かんでいる。
もみくちゃになるまで抱きつぶされて、細く柔らかな髪は乱れ絡まっている。
身体中についたキスマークや噛み跡が鬱血して痛々しい。
それでもなお彼女は頬を染め、表情は恍惚としていた。
僕はそれが愛らしくて微笑んだ。

「驚きましたか?僕はこう見えて結構嫉妬深いんです」
「それはもう、よくわかりました…」
「よろしい。これからはいかなる男性にも身体に触れさせないこと」
「はい…」

弱々しく頷く彼女にの瞼に短く口づけを落とす。
「痛い思いをさせてごめんね」
耳元で低く囁き、今度はうんと優しく、甘く、心地の良いキスをした。

「あなたを失った僕ほど、空いものはありません――あなたには、わからないかもしれないけど」
僕が言えば、意味をわかっているのかいないのか、彼女が首を傾げ、濡れた眼差しのまま花のように微笑んだ。
ああ、僕が何度も恋しつづけている、この笑顔。
「あなたは世界でたったひとりの僕の女神。どうかこれからも僕を離さないで」

そのあと、僕たちは起きたまま朝陽を浴びた。
彼女を両親不在の自宅にこっそりと送り届け、眠い頭をぼんやりさせたまま仕事場に向かったあの日の幸福は、2年経った今も色褪せないままだ。