やのマリ

ひとさじの欺瞞

茶色い小瓶、白い錠剤が入った大きな瓶、彼女が常備している漢方薬が3種類、袋に入った粉薬。僕は家中の薬をテーブルに並べて、呆然とその前に立ち尽くしていた。それからほどなくして、背後からガチャっと玄関のドアが開く音がした。パタタと軽やかな足音が…

夜明け過ぎの二月の雪

その違和感を感じたのは3ヶ月前のことだった。彼の帰りが遅かった日――打ち上げか稽古か、何らかの仕事が長引いたのだろうと特に気にとめずわたしはベッドで眠っていた。夜更けに彼が帰ってきて、枕元で「ただいま」とやさしく囁いてわたしの頬にキスした。…

エデンの歌、春に咲く花

シャワー室から出てきた彼女が、ガウン姿のまま寝室のベッドに腰掛けペディキュアを塗っている。彼女がうつむいて、しどけなく耳にかけられた濡れ髪が一房、肩に垂れる。そんな光景すらも、去年の冬に彼女と訪れたルーヴル美術館のモナリザより僕の心を掴んで…