文章

甘い運命

 それは、ちょっとした出来心だった。家事の最中、立香はリビングにある戸棚のひきだしが中途半端に飛び出しているのに気がついた。中が気になってそのまま引っぱり出してみれば、思いのほか軽い。空なのかしらと中を覗き見ると、そこには古ぼけた…

花園に雨が降る

 彼がマスターの密かなルーティンに気がづいたのは、ちょうど一ヶ月前のことだった。カルデア内のレクリエーションルームのひとつに、ピアノやオルガンなどの楽器が設られた部屋がある。音楽にゆかりのある英霊は限られているし、楽器が西洋音楽に…

その春は永すぎて

 「ふたりは恋人同士なの?」ロンドンに暮らし始めて、出会った人からこんな質問を受けるのは何度目だろうか。僕は手短に決まり文句を述べた。「恋人じゃない。……ちょっと複雑なんだ」この返答を聞けば大抵の人間は困った顔をして曖昧に微笑み、…

まだ名前もないふたり

 迂闊だった。そもそも自分は毎度のことながら、彼女のペースに巻き込まれすぎている。しかし、いくら注意深く距離を置いているつもりでも、気づけば彼女に心が惹きつけられてしまうのだからどうしようもない。隣で安らかに寝息を立てて眠っている…

ブルーの準備はできている

「ホームズ!!」ほとんど悲鳴のような声をあげ、真っ青な顔をした立香が駆け寄った壁際には、長身の男が力なくうなだれていた。いつもきっちりと着こなされている糊の効いた上質なシャツははだけ、不健康な白い腕には無数の小さな穴のような傷跡があった。も…

ブーゲンビリアの微笑

大学生の観月くん(21歳)が歳上のお姉さん(あなたです!)と恋に落ちる物語。※がっつり性描写があります※聖ルドルフの面々もでてきます(不二弟に彼女ができてたりします)※微妙に冒頭に赤観っぽい表現があります苦手な方ご注意を!夢主人公の設定観月…

彼女のいないシャングリ・ラ

!注意!※行マリ世界線の風七が南の島でセンチメンタルジャーニーする話※全員成人済(24歳くらいイメージ)※風真くんと七ツ森くんがマリィと結ばれません(地雷の方お気をつけください!)※あくまで友人として仲良しの二人を描いていますがかなりブロマ…

Darling in my Umbrella

大学生の夏休みは9月からが本番だと言っても過言ではない。藝祭を終えたばかりの八虎と世田介は、一緒に暮らすマンションの一室で、残暑の厳しい9月前半の火曜日の朝を迎えていた。真夏のような暑さになるという天気予報の通り、午前中の儚い冷気は太陽の熱…

ミューズが僕らに微笑んだ

それは終わりのないクロールのように、水中で苦しみもがき続けるようなセックスだった。憶えているのは、焼けつくように喉にこびりついたアルコールと、互いの汗の蒸れる匂い。大きな手のひらが首筋や頬に触れる感触。なかば無理矢理に口に含まされた冷たいス…