観月はじめは今年21歳で、猛勉強の末入った大学での成績も上々、そして頻繁に顔をだしているテニスクラブにはいまなお少年時代から腐れ縁のチームメイトたちが顔を揃えていた。
おろしたてのエレッセのポロシャツからのぞく観月のうなじは白く、今日も涼しげな表情を浮かべてテニスコートを傍観している。
それは6年前と変わらない、初夏の風景だった。
もちろん、変わってしまったこともある。
なにより、もう誰も、聖ルドルフ中のあのユニフォームを着ていない。
裕太には付き合って2年になる年下の恋人がいるし、柳沢はなぜか急に大学を休学して世界放浪の旅に出てしまった。
が、インドやメキシコなど、あてどなく旅を続けていた彼が「一時帰国しただーね」というので、今日は急きょ観月と赤澤が練習するこのコートに、柳沢や不二、金田、淳をはじめとするルドルフ中の元チームメイトが集まった。
だが、こうして集まってみるとあの頃のまま、何も変わっていないような気がする。
けれども観月にも変わってしまったことはいくつもあった。
あれから身長も10センチ近く伸びたし、長らくスキンケアに力を入れてきた肌にもおぞましい髭が生えてくるようになった。
もうすぐ脱毛も完了する予定だが、毎朝鏡を見てぞっと身の毛の弥立つあの感じにはまだ慣れない。
女の子を抱いたことも、何度かあった。
けれど、いずれも趣味じゃなくてすぐに別れてしまった。
それを気にしているわけではないけれど、昨日別れた女の子からかかってきた電話のことを思い返すと、なんだか憂鬱な気分になった。
そんな観月の様子に赤澤がなにかを感じたのか
「どうした観月。腹でも痛えのか?」
と、いつもの調子で観月の顔を覗き込んだ。
あいかわらずデリカシーのない言葉選びに、観月はムッとした。
その一方で、どうして自分がこんな男とここまで長い間一緒にいるのだろうか、と考えると可笑しくなった。
「赤澤。貴方は本当に変わらないですね」
赤澤は観月とは違う大学に進学したけれど、お互いの大学が徒歩15分程度のところにあることもあって、交友は続いていた。
少なくとも、週一回はこうしてこのテニスコートに集まった。
赤澤は大学の成績もテニスの成績も鳴かず飛ばず(とはいえ名門テニス部の一軍の選手ではあるが)で、女性と付き合っても観月の知る限りではどれも数ヶ月で破局していた。
それなのにこの男はいつでも明るく、心に余裕があるようだった。
だから観月も、肩肘張って人生を生きていくなかで、彼のそばにいるときは少し気が楽になれるのかもしれない。
元ガールフレンドから、観月への非難轟々の電話がかかってきたのは昨日の深夜のことだった。
数々の罵詈雑言の応酬の中で、彼女は
「観月くんって本当に女の子が好きなの?本当は男の人が好きなんでしょ。そうでしょう」
と責め立てた。
観月は、言いがかりもいいところだ、勘弁して欲しいと心の中で悪態をついたが、それ以上にこのやりとりの無意味さに絶望していた。
「そうかもしれませんね」
彼がすこし投げやりな声を出すと、相手に緊張が走るのがわかった。
そして彼女はすぐに弁明するように何か言いかけたが、観月は非情にもプツリと通話を切ってしまった。
こういうことは過去に何度かあった。
彼を夢中にさせるほどの求心力が、過去の女たちになかったのだと言ってしまえば簡単だ。
だがこれは観月にとってもセンシティブな問題だった。
彼は昔から中性的な容姿をしていたし、そこらにいる女子よりかなり身綺麗にしていた。
おかげで恋愛対象が男性だと誤解をされることがなかったわけじゃない。
けれど、男所帯のテニス部で、飽きるほどの男の裸体は見てきたが、げんなりするばかりで性的な興奮を覚えたことはなかった。
まぎれもなく、自分は異性愛者だという自覚があった。
それでも今、彼は自分の恋愛でのギスギスした気持ちを、ふと忘れさせてくれた目の前の赤澤のことを思った。
ひょっとしたら。
いや、万に一も可能性はないが。
赤澤は、観月の視線に気がつき、振り返ると、意味がわからずキョトンとした。
ふたりが言葉もなく見つめ合うコートには、誰もいなかった。
他の部員はさきほど柳沢に連れられコートを出て行ったからだ。
インド土産が柳沢家の大きなバンがいっぱいになるほどたんまりあるらしく、荷物運びに駆り出された騒がしいメンバーたちがいなくなり、さきほどまでの喧騒が嘘のように、コート内は静かだった。
初夏の少し冷めた風が、2人の間を吹き抜ける。
観月はつい先ほど自分の中に生まれた考えに、身動きが取れずにいた。
無言でその場に立ち尽くす観月に、赤澤はすこし困っていた。
彼なりに悩んだ末、
「お前はむかしっから、ウチのお姫様みたいなもんだったけど」
と語りかけると、ポンと観月の頭に掌を置いた。
「俺にはちゃんと言葉にしねえと、なんも伝わんねえよ」
お前もわかってんだろ?といつもの屈託のない笑顔を浮かべる。
観月と赤澤の髪や肌の上を木漏れ日が揺れていた。
赤澤の問いに答える観月の目には迷いがなかった。
「わかってますよ。だからもっと、言葉より簡単な手段をとりたいんです」
観月の唇が艶かしく光ったかと思うと、彼は少し背伸びして赤澤に近づいた。
ふわり、と観月の髪の毛の匂いが赤澤の鼻腔をかすめた。
その匂いは初めて観月と出会った8年前から変わらず、赤澤の心をざわつかせた。
どんな女の子のシャンプーの香りより蠱惑的なそれを、彼はいままで、意図的に気づかぬふりをしてきた。
その唇の、溶けそうなほどの柔らかさを知るまでは。
頭に閃いた妙案を観月が実行したとき、赤澤は少しうろたえたようだった。
ただ、長年にわたるわがままに付き合わされてきた下僕根性が、自然と観月を受け入れさせたのか、間抜け面でポカンと開かれていた目と口は、少しすると閉じられた。
赤澤の唇はカサついていて、先ほどまで日光の下でプレーをしていたので汗ばんでおり、すこしだけ塩気を感じた。
永遠にも感じられたその数秒間、ふたりは互いの唇の味を知ったが、顔を離すと、赤面している赤澤に対して、観月はさも可笑しくてたまらない、というように吹き出した。
「んふっ…ははっ」
そんな観月の様子を見て、赤澤はすこし残念そうにも、ほっとしているようにも見える表情で肩を竦めた。
「冗談がすぎるぞ」
赤澤は明るく言い放ったが、白い肌に浮かんだ紅いさくらんぼのような観月の唇からはそっと目を逸らした。
そんな赤澤の気持ちなどよそに、観月は涙を浮かべながら笑った。
彼は、自分がこれ以上赤澤の唇を求めたいなどと、ちっとも思えないことに安堵していた。
観月はふと空を仰いだ。
このテニスコートは閑静な住宅街の中の、木々に囲まれた公園の中にあった。
この公園の真裏には、昔この地に移り住んだフランス人夫妻が建てた屋敷があり、ちょうど今ふたりが立っている位置から、屋敷の二階の出窓がよく見えた。
窓には白いレースのカーテンがかかっていて、4月の青空によく映えた。
その窓辺には、1人の女が立っていた。
髪は長く、艶やかで、真っ白な肌をした若い女だった。
彼女は微笑しながら観月を見ていた。
観月も彼女の視線に気づき、すこしだけ微笑み返したあと、
彼は彼女と再開する数ヶ月の間、そのことをすっかり忘れてしまった。
***
柳沢のインド土産――もとい、ピンクのガネーシャの置物だの、チャイ用のスパイスだの、よくわからない寺の僧侶から譲り受けた仏具だの、女性用のサリーだの、主に不要なものばかりがどっさりとテニスコートのベンチに鎮座していた。
観月は適当に持ち運びに困らない小物類を頂いてお茶を濁すつもりが、
「観月にはこれだーね」
と柳沢は暴れる女神カーリーの像を観月に押しつけた。
その様子を見て何か知っている様子の木更津、金田がクスクス笑うのを観月がジロリと睨み付けても、こころなしかみんなニヤついているようだった。
夫であるシヴァを踏みつけ舌を出したカーリー神の像は、持ち運ぶには大きすぎた。
その日は帰りに書店に寄る用事があったので、カーリー神をロッカーに置いたまま帰宅した。
それ以降も、なんとなく持ち帰るのが面倒で、像は長いことテニスクラブのロッカーにしまわれていた。
***
6月のある日、観月はクラブの管理人に呼び止められた。
「一斉清掃、ですか」
年に一度のクラブハウス・コートの清掃があるとのことで、ロッカーを空にしなければいけないらしい。
その日は天気予報が外れて、朝の快晴が嘘のように、正午にはどんよりと曇って、昼下がりには雨が降り始めていた。
あいにくその日は天気予報と早朝の晴れた空を鵜呑みにして外に出てしまったので、手元にあるのはロッカーに置き傘していた小さな折りたたみ傘のみだ。
雨脚は観月があれやこれやと用事を済ませているうちにどんどん強まり、帰宅時には豪雨と言っても差し障りのないほどになっていた。
走ればなんとかなるだろう、と勢い勇んでテニスコートを後にしたものの、腕で抱え持っているカーリー神がどうしても折り畳み傘からはみ出て雨に濡れてしまう。
メタリックカラーのペイントが施されているがこの像は木造だ。
あまり濡れると傷んでしまうだろう。
「ツイてませんねえ」
観月は帰路の途中にある、例のフランス屋敷のガレージで、雨脚が弱まるのを待っていた。
夕立のように、数分で雨脚が弱まってくれればいいが、とため息をつきながら外を見ていた彼は、ふと自分が雨宿りしている屋敷を見渡した。
自分がいま身を潜めているガレージのすぐ近くにある玄関ポーチは、藤棚のように植物がぐるぐるとアーチ状に巻きついていて、真っ赤なブーゲンビリアが狂い咲いている。
薄暗く、淡い水色の光に満ちた梅雨の空気の中で、ブーゲンビリアの花だけが燃えているようだった。
観月がその光景に見惚れていると、傘をさした髪の長い女が、玄関から出てきた。
「あら、大変」
それは、色素の薄い、透き通るような瞳の若い女だった。
彼女はガレージにたたずむ観月に気がつくと、物怖じせず彼に近づいた。
「ずぶ濡れじゃない。身体が冷えると良くないから、うちに上がって。タオルお貸しします」
観月は突然の出来事にすこし驚いた。
しかし、身体もカーリー神もずいぶん濡れてしまったし、雨脚も弱まりそうになく、彼は内心参っていたので、まさに彼女の登場は「渡りに船」だった。
「かたじけないです。もし良ければ、この像を覆えるビニール袋のようなものもいただいてもいいでしょうか」
観月はすこし恥ずかしそうに、自分の足元に鎮座している金色の像を指差した。
「なに?これ、カーリー・マー?」
「そうです。友人のインド土産を押しつけられてしまって」
女は興味深そうに覗き込む。
不意に彼女がパーソナルスペースに近づいてきたので、観月はゴクリと固唾を飲んだ。
こんな大雨の中、折りたたみ傘に入りきらない馬鹿げたサイズの金色の像を抱えて歩いている自分は、目の前にいるこの美しい女性の目に、どんなに滑稽に映ったろうか。彼の心はとても憂鬱になった。
彼女は観月のそんな百面相を不思議そうに眺めていたが、微笑みながら言った。
「像もずいぶん濡れてるし、とりあえずあがっていったらいいわ。大きな傘も貸してあげます」
そうして彼女に言われるがまま、観月はその屋敷に招かれた。
屋敷は外観ほど新しくはなく、古い木造の建造物だった。室内は、一見無造作だが塵ひとつ落ちておらず、清潔だった。
「君、名前は?」
「あ、観月はじめと言います」
長い廊下を歩いて居間に通された。
「観月くんね。わたしは東雲香織っていうの。よろしくね」
「はい、東雲さん」
居間は吹き抜けになっており、天井には大きなシーリングファンがついていた。
壁にはいくつもいくつも油絵や水彩画、ドローイングなどが綺麗に額装して飾られている。
観月が茫然とリビングの内装を観察していると、東雲がパタパタとスリッパの足音と共に戻ってきた。
「これ、タオル。自由に使って。いまから温かい飲み物を持ってくるから」
「あ、お構いなく…」
観月がそう言い終わる前に、「いいからいいから」と歌うように言いながら、彼女はキッチンへと姿を消した。
かと思うと、すぐにマグカップをふたつ載せたお盆をもって現れた。
「さっきちょうどチャイを淹れたの。どうぞ」
紅茶には口うるさい観月も、身体が冷えて手が悴んでいたので、このホカホカと湯気を立てる甘い匂いの飲み物はひどく美味しそうに思えた。
手渡されたマグカップを掌で包むと、じんわり温かい。
「いただきます」
そう言って一口飲んで、その美味しさにほっと息をついた。
チャイ用の茶葉はあまり品質の高くないアッサムやセイロンなどを使うのが一般的で、今出されたチャイに使われている茶葉もチャイ用にあつらえられたものだろう。
しかし、シナモンやクローブ、カルダモン、ブラックペッパー、ジンジャーなどのスパイスの味や香りが新鮮で、今まで飲んだどんなチャイより美味しかった。
「美味しい…」
気づけばそんな感嘆の声が観月の口から漏れ出た。
「良かった」
目の前のソファに腰掛け、マグカップの中身をティースプーンでかき混ぜていた東雲がゆっくりと微笑んだ。
東雲の背後にある大きな窓からは、玄関のブーゲンビリアがよく見えた。
彼女が微笑むたび、雨風がその真っ赤な葉を揺らすのがあまりに美しく、一つの絵のようだった。
観月はその様子をみつめていると、胸がカッと熱くなるような、悲しくてたまらないような、不思議な気分になった。
そんな観月の思いなど知る由もない彼女が、ふいに口を開いた。
「あなたって、よくうちの前のテニスコートでテニスしてるよね」
思いがけない彼女の言葉に、観月は先ほどの憂鬱を胸の内にしまい、
「ええ。よくご存知ですね」
と、動揺を気取られぬように答えた。
「私の書斎から、コートの様子がよく見えるの。すごく綺麗なプレーをする選手がいるなあって思ったら、いつも観月くんだったから、覚えてる」
観月をみつめる東雲の眼差しは、少女漫画に憧れる女学生のように、すこしうっとりしていた。
だが、彼女の言葉を素直に受け取れず、観月は自嘲気味に笑った。
「僕のプレーが?そうでしょうか」
もちろんアマチュアの中ではかなり上手い方に入るだろうが、第一線で活躍している裕太や赤澤と比較すると、選手業よりもコーチ業に主戦場を移している自分が、あのテニスクラブで上位のプレーヤーに属するとは思えなかった。
もちろん、コーチ業に関しては日本中を探しても5本の指に入るという自信はあったが。
「それは買い被りすぎですよ。東雲さんはテニスがお好きなんですか?」
観月が外向きの笑顔で答えると、東雲は少し恥ずかしそうに俯いた。
「いいえ、実を言うと、あまりスポーツって詳しくないの。でも……あ、そうだわ」
彼女はそう言って立ち上がり、近くにあった作業台らしきテーブルのうえに置かれていたスケッチブックを手に取った。
彼女はいくつかページをめくったあと、「あった」と小さく呟き、観月に手渡した。
観月は訝しげにそれを受け取ったが、その絵にはハッと驚かざるを得なかった。
そこには自分のプレー姿が実に見事な筆致で描かれていたからだ。
「これ…僕ですか?」
「そう。窓から見える姿がとても素敵だったから…思わず次の作品のインスピレーションが湧いてしまって。モデル料も払ってないのに、ごめんなさい」
「いえ。感動しました。…これは驚きましたよ」
観月の褒め言葉が気恥ずかしかったのか、それはあくまで即席でかかれたドローイングなのだ、と東雲は言い訳したが、彼の目にはそんな風には見えなかった。
「この居間に飾ってある絵も、全部東雲さんが描かれたんですか?」
「ええ」
「東雲さんは画家なんですか?」
「いえ、私はまだ学生で…博士課程で論文を書きながら、鎌倉の女子校で美術の非常勤講師をしてるの」
東雲がそう答えると、観月はより彼女に興味を持った。彼が今まであまり接点のなかったタイプの経歴を持つ人物だったからだ。
そこから2人はお互いの身の上話へと話題を移した。
東雲が大学で西洋美術史を専攻していることや、学部時代は油彩を学んだこと、観月が経営学部の3年生であること、大学のテニス部のほかに週末はこの近くのテニススクールに通っていることなどを話したが、どうやらお互いに通っている大学が同じらしいと気づいた時にはふたりはかなり打ち解けていた。
「あら、観月くんもK大学なの?わたしもなの」
「ええ。お互い知らない間にすれ違っていたかもしれませんね」
東雲はうれしそうにクスクス笑っていたが、ふいに真剣な表情をした。
「あのね。観月くん…もしよければ、正式にわたしの絵のモデルをしてくれないかな…その、嫌じゃなければ」
そんな彼女の申し出に、観月は柄にもなく心臓がドクンと高鳴るのを感じた。
美意識の高い彼は、自分の容姿にもそこそこの自信があったし、どんなに他者から外見を褒められようと、必要最低限の謙遜こそすれ、心のうちでは密かにそれが必然的な周囲の反応であることを自負していた。
ところが、今日出会ったばかりのこの美しく不思議な女性の前では、そんな自負など風前の灯である。
しかし、そんな感覚とは裏腹に、
「僕で良ければ、よろこんで」
と、瞬時に快諾していたうえ、
「東雲さんがご興味がおありなら、ぜひ土曜日のテニスクラブの練習も見にきませんか?」
などと口走っていたことに気づいた観月は、自分の抜かりなさに恐ろしくなった。
それは常日頃から何らかの交渉ごとに追われている彼の職業病のようなものだったが、彼の計算通り、東雲はその言葉に瞳を輝かせて喜んだ。
それから観月は毎週土曜の夕方から夜の時間に東雲のもとで絵のモデルを務めることになった。
***
次の土曜日。
いつものテニスクラブは、異様な空気に包まれた。
それはすべて、観月が訳知り顔で連れ歩いている美しい女性が原因だ。
コートの管理人らには完璧に事情を説明してあるようで、観月が軽く挨拶を済ませた後、クラブ関係者の中年男性らは皆デレデレとだらしのない表情で彼女の手土産を受け取っていた。
事情を知らない聖ルドルフ卒業生たちはただ茫然とその様子を見守るしかなかったが、楚々として、妖精のようにミステリアスな雰囲気を纏う件の女性には目線が釘付けにならざるを得なかった。
そして何より、観月の様子である。
彼女が微笑むたび、いつになく朗らかな笑顔で受け応える観月を見た部員たちは、その様子に背筋が凍るのを感じた。
彼がそこまでに毒気のない笑顔をしていることは滅多にないが、その時は間違いなく肝が冷えるような恐ろしい策略を働いている時と決まっていた。
彼女はメンバーたちと同様に練習前からコートに現れ、観月たちが練習する間は木陰に腰掛けてスケッチブックを開いていた。
黄色い声援のようなものを想定していた赤澤は、その様子を不思議に感じたものの、真剣な表情でスケッチブックに向き合う彼女を見て、どうやら彼女にミーハーな動機はないのだと察し、なぜだかほっと胸を撫で下ろしたい気分になった。
11時半を少し過ぎた頃、早めの昼休憩をとることになった。
女は手に持った大きなバスケットを開いて、中から少し大きめの水筒や、サンドイッチ、軽めの焼き菓子などを取り出し、紙皿の上に並べた。
しかし、驚くべきは、普段は昼休憩もデータ整理に追われている観月がいそいそと彼女のいる木陰へと歩き出したことである。
その場にいた全員が、信じられない、といった様子で、目を丸くしながら観月の様子を見守っていた。
そんなオーディエンスの驚きようをずっと見ていた東雲は、観月がこちらに歩み寄ってくると、ついに耐えきれず吹き出した。
「観月くんはこのクラブの王子様なのね、いや、ある意味ではお姫様?」
観月は何のことかわからない、といった表情でぽかんとしている。
「ほら、さっきから、観月くんはここにいる全員の注目の的なんだもの」
東雲の指摘にはっとした観月はあわてて振り返り、周囲を疎ましげに眺めまわした。
すると、瞬時に周囲の人々は面白いくらい一斉に視線をそらしてみせた。
そんな様子にまた東雲はころころと笑った。
しかし、ただ一人、目線を逸らさぬ男がいた。
言うまでもなく——赤澤吉朗である。
「赤澤…」
鬼の形相で赤澤を睨み付ける観月がにじり寄ってくるのを、赤澤はしまったなという顔で待ち構えたが、彼は最初から目を逸らす気など毛頭なかった。
理由は一つ。謎の女——東雲に接触するためである。
彼の思惑通り、東雲が赤澤を見る目は好意的なものだった。
ついには、
「そこのあなたもこっちに来たら」
と東雲は赤澤を手招いたので、観月は怒りを腹の中に収め、諦めた表情で「いきましょう」とこぼすと、スタスタベンチの方へと戻っていくしかなかった。
赤澤は東雲の座るベンチに、ひとつ席を開けて座った。
観月は赤澤とは反対側の、東雲のすぐ隣に遠慮がちに腰掛けた。
東雲は一人分には大きすぎるサイズの水筒を手に取り、カラカラと氷のあたる涼しげな音をさせながら、紙コップにアイスティーを注いだ。
「アイスティーを作ったの。サンドイッチもね。スコーンと焼き菓子は駅前のパン屋さんのよ。すごく美味しいの」
そう言って彼女はそれぞれカップと皿を2人に差し出した。
こんなに綺麗なサンドイッチや香りのいいアイスティーを作れるのに、お菓子はお店のなんですね、と観月がいつもの調子で尋ねると、
お菓子はプロにアウトソーシングする主義なの、そう付け加えながら照れたようにうつむいた。
はにかむ彼女の横顔は、なるほど蠱惑的だ。
「遠慮せずに食べてね」
長いまつ毛に、キラリと太陽の光を反射して、彼女は赤澤にカップと紙皿に乗せられたサンドイッチをすすめた。
「ありがとうございます!いただきます」
礼儀正しくいかにもスポーツマンといった赤澤の態度に、東雲は微笑んだ。
サンドイッチを受け取った赤澤は、生真面目な表情で彼女に向き直ると、
「…自己紹介がまだでしたよね、俺は赤澤吉朗って言います。観月とは中学の頃から同じチームで…」
と、不器用に話し始めた。
観月は、美女を前にあからさまに緊張している赤澤が面白くて仕方がなかったが、笑いを堪えつつ助け舟を出してやることにした。
「僕たちは聖ルドルフ中テニス部のOBで、進路がバラバラになった今も、昔のよしみで休みの日にはこのクラブに集まって練習しているんですよ」
聖ルドルフ中といえば、この近辺では進学校として有名なキリスト教系の私立中学校である。
東雲は聞き馴染みのある学校名に微笑んだ。
「あら、そうなの?わたしも、鎌倉にある小中高一貫のカトリック系の女学院に通っていたから、何度かルドルフ中のチャペルには学校行事で行ったことがあるの。素敵な学校だよね」
東雲の出身校が、彼らにも馴染みのあるカトリック系女学校だったので、一同はしばし懐かしい話に花を咲かせた。
「観月は毎年クリスマスミサの讃美歌の独唱を任されていたんですよ」
「えっそうなの?すごい!」
「それほどでもありませんよ。んふっ」
ひとしきり話し終えて、東雲はゆっくりと満足げにため息をついた。
「なんだか一気に親近感沸いちゃった。それにしても、中学の同級生と今もこうしてずっと仲がいいって、ちょっと羨ましいよ」
「自分たちでも驚いてます。まさかこんなに関係が続くなんて」
赤澤はそういって目を細めてコートで騒いでいる金田や裕太を見ていた。
「君たちには僕がついていなきゃだめなんですよ」
「観月はいつまでも俺らのおかん役というか、女房役というか」
東雲は、男子たちのさわやかな友情を羨ましく感じながら、会話に聞き入っていたが、ふいに赤澤が彼女に問いかけた。
「…観月と知り合いみたいだったけど、こういう話はまだ聞いてないんですね」
赤澤がこの言葉を口にした時、彼はちらりと観月を見た。
その口調は穏やかだったが、赤澤の視線を感じた時、観月の心は冷たく水を刺された気分になった。
そして彼はふと思い出した。——数ヶ月前の、木漏れ日の中の戯れのようなあのキスを。
観月はやや気まずい思いをしながら東雲の言葉を待った。
そんなキスのことなど知るはずのない彼女は、ただ正直に観月との馴れ初めを語り始める。
「実はわたしたち、まだ知り合って1週間なのよ」
彼女の屈託のない微笑みの威力は絶大で、赤澤の警戒心がすこしずつ解けていく。
東雲はかいつまんで1週間前のあの雨の日の出来事を赤澤に語って聞かせた。
「はは、柳澤に押し付けられた馬鹿げた像がこんな縁をもたらすとはな」
話を聞いた赤澤は愉快そうに腹をかかえて笑っていた。
「まったく、非常識な土産物は今後はよしてもらうよう元部長として強く諭しておいてください」
観月はさも迷惑そうに眉をひそめた。
だが、赤澤はちらりと東雲を見遣ると、先程の生真面目な空気を滲ませて聞いた。
「でも、結局お前としては満更でもなかったんじゃないか」
そのなんともいえない気まずい台詞に、観月はまたも言葉をつまらせる。
彼は返事をすることなく、ただ赤澤のまっすぐな眼差しから目を逸らすことしかできなかった。
***
その日の夕方。観月と東雲は屋敷のアトリエにいた。
観月は「自由にしていていいから」と言われるがままにソファに腰掛け、大学の図書館で借りたばかりの本を鞄から取り出し、細々と並ぶ文字の羅列を心おぼつかぬまま眺めていた。
東雲はいままで書き溜めてきた彼のイメージを補完するように、観月の瞬きや指の動き、首をかしげる動作などをしげしげと見つめていた。
そんな彼女の視線がこそばゆく、なんとなく居心地が悪かったので、
「すこし、話をしてもいいですか?」
と、キャンバスに向き合う彼女に話しかけた。
「もちろん。黙ってちゃ退屈よね、ごめんなさい」
真剣な表情で筆を動かす彼女は、はっとして顔を上げ、申し訳なさそうに微笑んだ。
「このお屋敷って、東雲さんの実家なんですか?」
「いいえ。ここはもともと……昔の知り合いの家だったの。その人が外国に行ってしまって、庭と屋敷の手入れを任せる代わりに、この屋敷の所有権ごとわたしに譲っていったのよ」
彼女の話が思わぬ大それた内容だったので、観月はすこし踏み込みすぎたかと後悔した。
しかし、一心にキャンバスに向かう彼女の美しい横顔は崩れることなく、真剣な表情のまままっすぐに筆先を見つめている。
「それで、あなたはずっとここに住むことにしたんですか?」
観月の戸惑いを悟った彼女は、すこし悪戯っぽい微笑みを浮かべた。
「そうね…。でも、すこし勝手すぎるかもって、思う」
勝手すぎる?
観月がキョトンとしていると、彼女はキャンバスにすーっと細くまっすぐな線を引き、ため息混じりにつぶやいた。
「もうそばにいる気はないくせに、わたしの住む場所や人生を、決めつけていくなんて」
そう言ってそっと目を伏せた彼女を、観月はただ黙って見つめることしかできなかった。
まだほの明るい窓の外では、ぱらぱらと静かな雨が庭の白い紫陽花を濡らしていた。
そのあともいくつか他愛もない会話を交わしたが、外が暗くなり、東雲が蜂蜜色のランプを灯した頃、いつのまにか観月はソファに深く沈み込むように微睡んでいた。
どのくらいこうしていたのだろうか。
観月は目を覚ました頃には、外はすっかり暮れて、雨は止み、厚い雲間にうっすらと月の光がさしていた。
キャンバスに向かい合っていた東雲の姿はなく、ドアの外からは微かなピアノの調べが漏れ聴こえてくる。
観月は、いましがた微睡んでいたこの東雲のアトリエをぐるりと見渡した。
東雲が部屋にいたときは、なんとなく気が引けて、壁にかけられている写真や絵をまじまじ見ることはしなかったのだ。
どこかわからない美しい海や海岸、東雲とその両親と思しき老夫婦の写真——そして、彼女とよりそう一人の男の写真が目についた。
歳の頃は彼女のひとまわりは上だろうか。30代半ばくらいの青い目をした長身の男が、こちらに向かって穏やかに微笑を浮かべていた。
観月はその男の笑顔に少しうんざりしたような気持ちになったが、すぐに気を取り直して、いつのまにかかけられていた柔らかな肌触りの良いブランケットを畳んでソファの脇に置くと、彼は音のする方へゆっくりと歩きだした。
屋敷の長い廊下を進めば、初めてこの家に訪れた時に通された居間のとなりに、ピアノが置かれている部屋があるらしいということに気がついた。
わずかに扉を開けて、ピアノを奏でる東雲の表情を盗み見れば、彼は息を呑んだ。
それは——いままで見たどんな彼女より穏やかで、柔らかな幸福に満ちているようだった。
一つ一つの音が丁寧に奏でられ、美しい響きを持って、先ほどまで庭の草木を濡らしていた柔らかな雨のように、部屋中に降り注いでいた。
演奏が終わると、観月は思わずひとりごちた。
「バッハのカンタータ第140番」
その声に、東雲は楽譜をめくる手をとめた。
「観月くん。起きてたの」
彼女がすこし恥ずかしそうにこちらを振り返る。
「すばらしい演奏でした。東雲さんは楽器演奏も得意なんですね」
観月はやや興奮気味に拍手し、彼女の演奏を称えた。
「ありがとう。これでも高校時代は、古楽部でチェンバロ奏者をしてたの」
東雲の母校の古楽部は名物顧問が在籍し、難関音大合格者を多く輩出していることは観月も知っていた。
「意外です。東雲さんはてっきり、ずっと美術一筋だと思っていたから」
「偶然、幼い頃からピアノとチェンバロを教えてくれた人がいてね」
そう言って部屋の片隅にひっそりと置かれているチェンバロやフォルテピアノを指さした。
よく見れば、この部屋には無数の楽器が置かれていた。さしずめ、音楽の部屋ともいうべきだろうか。
筆が乗らなくなるとこうしてピアノの前に座ると頭がスッキリするの、と苦笑する東雲はどこか嬉しげだった。
「観月くん、よかったらすこし歌ってみない?わたし、専門はバロックだけど、モダンのオペラも少しならわかるから」
「では、せっかくなので……。『オルフェオ』なんていかがでしょう?」
「いいね、モンテヴェルディ。大好き」
観月が提案した『オルフェオ』の作曲者クラウディオ・モンテヴェルディはルネサンス期からバロック期にかけて活躍した音楽家だった。
彼が好きなのは『カヴァレリア・ルスティカーナ』や『ラ・ボエーム』といったモダンのオペラだったが、彼の独唱の指導をした聖ルドルフの音楽教師の趣味で何度か歌わされたのをふと思い出した。
まさかこんなところで役立つとは……。どんなことでもやってみるものだ、と観月はひとりほくそ笑んだ。
***
こうして観月は、週末のたびに絵のモデルと務めると同時に、ささやかな合奏を楽しんだりするうち、ひと月ほど経った頃には、彼は東雲の家に自由に出入りするようになっていた。
彼自身、周囲の人物がことごとく体育会系だったので、自分の趣味について語り合える相手ができたことがとても嬉しかった。
そしてなにより、彼女が論文や非常勤講師の仕事で多忙ゆえに、自宅のことが疎かになりがちなことを気にかけた観月が、仕事や料理など、細々した用事を請け負うようになったためである。
「ただいま〜。うーん、いい匂い……」
「香織さんおかえりなさい。スコーンを焼いたんです。……あっ食べるなら手洗いうがい!」
「ふふ。観月くんって時々お母さんみたいなの。赤澤くんが言ってたこと、今ならちょっとわかるなあ」
観月に言われるがままに流しで手を洗うと、東雲はいそいそとテーブルの上に用意されたスコーンをかじり、紅茶を飲む。
「はあ。わたし、もう観月くんのスコーンなしじゃ生きられない」
「まったく。そんなに慌てて食べなくてもたくさんありますから」
「今日は朝イチから連続5コマ授業があって、そのあと部活にも顔を出したから、お腹がペコペコだったのよ」
「それはそれは。お疲れ様です」
「観月くんも午前はお仕事だったんだよね?いろいろお願いしちゃってごめんなさい」
「いえ、それはいいんです。せっかく近くまで来たんですし…」
今日の午前中、普段から観月が専属コーチとして指導を行っているとあるクラブチームの試合が例のこの屋敷の近くのコートで行われたのだった。
試合が終わるなり、勝利を収めたチームの打ち上げ(という名のどんちゃん騒ぎ必至の大学のサークルらしい飲み会)をやんわりと断った観月はいそいそとこの家に帰り、庭仕事や菓子作りに勤しんでいた。
午後7時半。
ふたりが3杯目の紅茶を飲み終えた頃、窓の外では雨がいよいよ本降りになっていた。
それを心配がった東雲がスマートフォンで天気予報をみると、あっと小さく声を上げた。
「台風の足が早まって、今晩には東京に近づくみたい」
「どうりで。昼間は晴れていたので、まだ大丈夫だと思ったんですが」
それはすこし嘘だった。台風の速度が早まっていることは、今朝のニュースで知っていたからだ。
「どうする?…電車も一部で止まりはじめてるみたい。家まで車で送って行こうか」
「いえ、風もありますし、香織さんまで危ない目に遭わせるわけには…」
そう言って観月が申し訳なさそうに語気を弱めると、たしかにこんな天気じゃ仕方ないか、と東雲も肩をすくめた。
「どのみち外に出るのはやめたほうがよさそうね。よかったら今日はうちに泊まって。部屋もベッドも余っているから」
「…すみません」
「いいのいいの。観月くんが着られそうなパジャマを探してくるわね」
いそいそと足早に部屋を出ていく東雲の後ろ姿を見つめる観月の表情からは、先程の困惑した様子はすっかり消え失せていた。
***
今年初めて本州に上陸した台風は、強い勢力を保ったまま東京に迫っていたが、幸いにして、観月や東雲が風呂に入るまでは電気やガスが滞ることはなかった。
観月の計らいで、今日の昼間に剪定した薔薇の花びらを浮かべた湯船は心地よく、東雲は上機嫌に睡眠前のハーブティーを用意した。
東雲の用意したパジャマは、まさかあの写真に写っていた忌まわしい男の置き土産なのではないかーーと、少しばかり戦々恐々としたものの、実物を手渡されるなり彼は少し驚いた。
それは女性もののネグリジェだったのである。
100%シルクと、繊細なレースがあしらわれた、とても上質な仕立てのネグリジェだ。
観月は思いがけない出来事に一瞬瞳を輝かせたが——すぐさま生真面目な表情でそれを受け取った。
「こういうもの」に喜ぶ男が女性の目にどんなふうに映るのかを観月は身をもって知っていた。ここでリスクをとる彼ではなかった。しかし、東雲の様子は今まで出会ってきたどんな女性とも違っていた。
「買ったはいいものの、使う機会がなかなか見つからなくて。今日ふと、観月くんに似合いそうだと思ったの」
手渡されたネグリジェを凝視する観月の顔を東雲が覗き込んだ。
「やっぱり…男の子にネグリジェなんて着せるのはちょっと失礼だったかしら」
不安げな東雲の表情をまえに、観月は自分の戸惑いを口にすることにした。
「これ…ほんとうにボクに似合うと思いますか?」
観月の声は震えていた。東雲ははて、どうしたものかと困惑しながら答えた。
「すこしゆったりした作りになっていて、サイズはちょうどいいと思うの。この生地、白だけど少しピンクがかって見えるでしょ。それが観月くんの雪みたいにまっしろな肌に映えるかなって…。それで、よければそれを、描いてみたいなと、思って…」
我ながらかなりセクハラじみたことを言っているなと不安になってきた東雲の視線が宙を右往左往しているのをみて観月はプッと吹き出した。
この人は腐っても画家なのだ。モデルが最も美しい瞬間を引き出したくてたまらないだけなのだ、と思うと可笑しくなってきた。
「嬉しいです。ボク、本当はこういう服が好きなんです。可笑しいですよね。…男なのに」
「そんなことない!観月くんにはこういう服が似合う。あなたは美しいわ。まるでマーキュリーとヴィーナスの間に生まれたヘルマプロディートスのように」
ヘルマプロディートスとはマーキュリー(ヘルメス)とヴィーナス(アフロディーテ)の間に生まれたギリシアの神で、年上のサルマキスに魅入られ、なかば無理矢理に彼女と一心同体にされだが故に両性具有になってしまった少年だ。
「ひょっとして香織さん、自分をサルマキスになぞらえてます?」
観月がすこしおちょくるように言えば、東雲はびくりと肩を震わせた。
「決して、そんなことは、ないわ…」
そう言って目を逸らす彼女に、観月はある種の確証を胸に、彼女に背を向けて浴室へと向かったのだった。
東雲の淹れたハーブティーは、庭に生い茂るミントをどっさりと使い、砂糖を入れたモロッコ式のミントティーだった。
寝る前に飲むには少し砂糖が多いけど、気温が高くなるとつい飲みたくなる味なの。と言って、東雲は自前のポットを高々と掲げ、小さなティーグラスに勢いよく茶を注ぐ。
すると、ミントの野生みある青々とした香りが部屋いっぱいに広がった。
初めて出会った日のチャイといい、今回のミントティーといい、彼女はすこしエスニックなものに執着しがちなきらいがあった。
観月は東雲の寝室に呼ばれ、また窓辺のソファを勧められた。そしてソファの前には彼女のキャンバスが備えられていた。先程の話の続きだろう。彼女は描く気でいるのだ。このネグリジェを纏った彼を。
観月は進められるがままにソファに座り、ミントティーをひとくち、口に含んだ。それは雨上がりのこの屋敷の庭の味がした。屋敷の庭は小さいながらもハーブ園やクレマチス園、バラ園などさまざまな区画に分かれていて、本来の持ち主の手を離れた今、すこし大雑把な家主の性格を反映するかのように、伸び伸びと、大いに茂った植物の群れで鬱蒼としていた。それは妖精のようにたおやかな見た目をしていても、中身は意外に無造作で情熱的な、彼女に似ていた。
嵐の夜の室内は、異様な静けさに包まれていた。轟々とうなる雨風は遠く、彼女の滑らせる筆と、吐息の音のみが彼の鼓膜をかすかにふるわせた。観月は、彼女の顔が暖色の明度の低いランプに照らされ揺れているのを見つめながら、その細い首筋や豊満な胸元や白い腕や脚の柔らかさを思った。彼女を口に含めば、今飲んでいるこの茶のように瑞々しくて奔放な味がするのだろうか。いま自分がソファから立ち上がり、彼女の肌に触れたなら、彼女は失望し悲しむだろうか。彼女の思いを探るべくなにか話しかけようか。
観月の胸中に芽吹いた煩悩がふくふくと大きくなるにつれ、外の嵐も勢いを増していく。
「あの——」
観月が言いかけた瞬間、バチンと大きな音がしてブレーカーが落ちた。停電だ。
東雲は落ち着き払った態度で、「少し待ってて」とあらかじめ用意していたいくつかのキャンドルにマッチで火をつけ始めた。
「これでよし」
彼女は満足げに言うと、何事もなかったかのようにキャンバスに戻り、筆をとった。
観月はそんな彼女の様子に少々面食らった。
彼は蝋燭の淡い光に包まれた寝室に彼女と二人きりでいるというこの状況と、彼女の肌から薫るかすかな薔薇の香りに気が狂いそうだったからだ。
気がつけば観月はソファから立ち上がり、ゆっくりと東雲のキャンバスの前に立ち止まると、彼女の筆を持つ手をゆっくりと取った。
「観月くん?」
東雲が戸惑ったように観月の顔を見上げる。
「はじめです。香織さんはボクをいつまで経っても名前で呼んでくれないんですね」
「えっ?」
観月は東雲の腕を掴み、右手に握られていた鉛筆を優しく奪うと、彼女の手の甲に自分の手のひらを這わせ、自らの頬に寄せた。
「あなたを知らなかった頃に戻れたらと、何度も思うんです」
彼の突拍子もない行動に東雲はただ目を丸くした。
「観月くん、どうしたの?」
心配そうにもう片方の左手も観月の頬に添え、彼の顔を見上げる。
ふわりと彼女の髪の匂いが近づき、観月の心拍数が上がっていく。いっそこの音が彼女にも聞こえていたならいいのにと思った。彼の心臓は、もう破裂しそうなほど苦しく高鳴っていた。
「香織さん、どうか、ボクを助けてくれませんか」
不思議そうに観月を見つめたままの彼女の肩にそっと腕を回せば、彼女は今更何かに気がついたように、さっと頬を赤く染めた。
「お願いです。どうか…ボクを拒まないで」
そこから先のことは、あまりに衝動的で、記憶は朧げだ。
気づけば彼は、彼女の腰を引き寄せ、そのうすく溶けそうにやわらかな唇に口付けていた。
彼女の唇は強張ったように硬く結ばれ、震えていたが、観月が優しく彼女の背中を撫ぜているうちに、観念したようにうっすらと口を開けた。観月はその隙を見逃さず、すかさず自らの舌を彼女の咥内にねじこんだ。
キスをしている間、恥じらう彼女をずっと眺めていたが、彼の舌を受け入れた彼女は先ほどまでの瞼をぎゅっと閉じた苦しげな表情がゆるみ、少しずつ穏やかな空気をまとい始めていた。
その彼女のわずかな感情の機微を見逃す観月ではなかった。
彼は彼女のネグリジェのボタンにそっと手をかけると、ひとつひとつをゆっくりと、器用に外し始めた。
「観月くん、待って…」
観月から与えられる執拗なまでに濃厚なキスに音をあげた東雲が息も切れ切れに抵抗するも、その意思は弱かった。
彼の鍛えられた身体にがっしりと抱きしめられ、逃げ場を失ったと悟ると、されるがままにネグリジェを脱がされた。
「嫌ならはっきり拒絶してください。ボクは今から貴女を抱きたい」
「観月くんはずるい。『拒まないで』なんて言ったくせに」
東雲は涙を浮かべて観月を睨んだ。その様子が幼い少女のようにも見えた。
「そうです、ボクはそういう人間です。失望しましたか?」
観月が東雲の身体にのしかかり、すこし挑発的に言い捨てれば、東雲は泣きそうな顔で首を振った。
「失望なんて……しないわ」
「じゃあ、ボクを嫌いですか」
「いいえ、ただ……自分が傷つくのが怖いだけ」
「なぜ傷つくんです」
東雲の白く華奢な身体には細いラインが特徴的な黒いブラジャーとショーツが巻きついていた。
「わたし、観月くんよりずっと歳上なんだもの」
その肌と黒のコントラストがあまりに艶かしく、観月は思わず息を呑んだ。
「自分の美しさをわかっていないのは香織さんのほうだ」
観月は弱々しく抵抗する東雲の腕を押さえつけ、下着を剥ぎ取ると、彼女の首筋に顔を埋め、耳元でそっと囁いた。
「愛しています」
そう言うと彼は彼女の腰にのしかかったまま、自分のネグリジェを脱ぎ始めた。
あれよあれよという間に丸裸にされてしまった東雲は、恥ずかしそうに腕で身体を隠そうとしたが、やはり観月の鍛えられた身体がそれをおさえつける。
「隠さないで。とても綺麗です」
やがて観月の唇は、彼女の首筋や鎖骨、乳房の間を何度も行き来し始めた。
すべすべと滑らかな肌の曲線を味わうように、観月のベルベットのような舌が這い回る。
「ひゃう、」
その感触に、声を押し殺していた東雲の喉から声にならない叫びが漏れ出た。
彼女の反応に気を良くした観月は、彼女の薔薇の花びらのように綺麗な色をした乳首をやわやわと食み、ゆっくりと焦らしたあと、きゅっと吸い付き甘く噛んだ。
「あっ駄目…」
急に強い刺激を与えられ、彼女の腰がびくっと跳ねた。
観月は愛撫のあいだ中、彼女の下腹を手のひらでゆっくりと円を描くように撫で続けていたが、次第に指が潤いを帯び始めた彼女の秘部をゆっくりと解しはじめた。
「あ…んあっ恥ずかしい、やっぱりダメ、だよ、こんなの」
くちゃくちゃと水音を立てながら掻き回され、東雲は腕で両目を覆った。
「もう指を3本も咥えてますよ。こんなに濡らして…香織さんが気持ちよくなってくれてうれしいです」
「観月くん、恥ずかしい…やめて…」
「名前で呼んでくれないんですか?」
「はずか、しい、から、ぁ…あっ…」
「呼んでくれるまでやめませんよ」
涙を浮かべて懇願しても、観月は不敵な笑みを浮かべたままだ。
「香織さんは奥が好きなんですね、きゅうきゅう締め付けてるの、わかりますか?ほら」
「は、はじめ…はじめくん、やめて…」
東雲が泣き腫らしたような赤い目尻に潤んだ瞳で観月を見れば、彼はまたもや意味ありげに微笑んだ。
「いい子。じゃ、今度はこっちでいっぱい突いてあげますね」
観月は下着を脱ぎ捨てると、彼女の秘部にその熱のこもった彼自身を充てがった。
ぐちぐちといやらしい音が東雲の羞恥心を掻き立て、彼女は声にならない叫びを押し殺したように、彼から与えられるであろう衝撃に備えた。
が、一向にそれは来なかった。
観月は東雲の太ももを持ち上げると、それを彼女のクリトリスにくちゅくちゅと擦り付けたり、彼女の秘部にくぽくぽと先端だけを焦らすように出し入れしたりを繰り返し始めた。
その不規則な快感の連続に東雲が耐えきれず喘ぎ声を漏らし始めた。
「んっ…あん!!ひっぁ!!」
その様子を見てほくそ笑みながら、観月はなおも繰り返す。
「な、んで…?」
困惑する東雲に、観月は余裕そうな表情を浮かべて言い放つ。
「どうして欲しいか、言ってご覧なさい」
「や、はずかしい…」
東雲は明らかに動揺していた。いかにもパニック、という表情だ。
観月はいつも清らかそうに見える彼女が乱れる様を見たかったのだ。
彼はなおも彼女を焦らし続けた。
「あっあんっそこだめっ」
「ほら、言わないとずっと苦しいままですよ」
「あっ挿れてっ…挿れてください!!」
「挿れて?どうして欲しいんですか?」
「い、挿れて、おくっ…奥いっぱい、突いてくださいっ…」
彼女はもう泣きそうだった。生まれてこのかた、セックス中にこんなはしたない懇願を求められたことなどなかったからだ。
彼女が言い終わるなり、観月はズン、と熱いかたまりを彼女の胎に沈めた。
彼自身も、乱れる彼女の誘惑を目の前に、糸一本のところで理性を保っていたので、もう限界だったのである。
一つになった2人はふたたび抱き合い、2度目の口づけを交わした。
2回目に味わう彼女の唇は、先ほどとは比べ物にならないほど熱く、彼の口づけをすっかり受け入れた。
舌を絡めながらも、観月は彼女の中を絶えず味わった。彼女の中は、ふうわりと彼を優しく包んだかと思えば、キュンとキツく収縮し彼を締め付けた。その感触があまりに心地よく、油断すると意識が持っていかれそうだ。
最初は恥ずかしそうに強張っていた身体が、観月が入念に奥をほぐすように愛すたび、ゆるりと、快感に身を委すように開かれていくのが手にとるようにわかった。
彼は彼女の奥を刺激するうち、コリコリとした突起のある部分ーー子宮口を見つけた。
この部分を刺激するたびに彼女はひときわ艶やかな声を上げた。
女性のこの部分は男性との性行為を重ねるほどに開発され、気持ち良くなるのだと昔何かで聞いたことがある。
彼女の奥を暴いた男が他にいるーーそんなことを考えたら嫉妬で頭が狂いそうになった。
そんな男のことを忘れ去るほど蹂躙してやりたい。観月はそう思った。
「香織さんのここ、ぐちゃぐちゃにしてもいいですか?」
キスをやめるなりそう告げた観月は、唇をぺろりと舐め、東雲の腰を持ち上げた。
「あっまってーー」
彼女の制止など無意味と言わんばかりに、観月は激しく腰を打ちつけ始める。
「いやっああ!!!!」
彼女の最も敏感な部分に、質量を持った熱いものが容赦なく打ちつけられる。
東雲は口から唾液をだらだらと流しながら、彼の律動を受け止め、されるがままに喘ぎ続けた。
「ほら、子宮が降りてきてる。ボクの赤ちゃんを孕みたいんですね」
かわいいなぁ、と恍惚としている観月に、東雲がはっと表情を曇らせる。
いろいろなことが起こりすっかり流されてしまったが、観月はコンドームをしていなかった。
つまり、避妊ができていない。
東雲は慌てて観月を制する。
「まって、中に出しちゃだめっ…赤ちゃんできちゃう」
「大丈夫。香織さんは今日は安全日なので、安心してください」
そうにこやかに告げる観月は、いつもの落ち着いた、余裕綽々の態度で受け流す。
「でもっ…いや、なんでっ…ぁ」
「香織さんのことは何でも知ってます。だから安心して、ボクを受け止めてください」
観月はそう言いながら逃げる彼女の腰をがっしりと掴み、また激しくピストンを始めた。
「だめ…ほんとにできちゃう…からぁ…あん!!ああ」
彼から与えられる強い快感に、何度も果てていくうちに、東雲の理性はグズグズに溶けかかっていた。
次第に観月の表情にも余裕が失われ始めている。
「香織さん…だいすきっ…愛しています…っ」
うわごとのようにつぶやきながら観月は東雲の首筋に甘く吸い付き、幾つもキスマークをつけた。
「香織さんは…、?」
されるがままの東雲の様子を不安に思い、観月は彼女の表情を覗き込む。
彼女は1番敏感な部分を容赦なく攻められ何度も果てたあと、遠くなりつつある意識の中で、彼の言葉を聞いていた。
「はじめくんが、好きよ…」
ゆっくりと、おぼつかない口調で返事をすれば、観月は嬉しそうに彼女の唇に口付けると、彼女の鎖骨や胸にキスの雨を降らせた。
「嬉しい。これで貴女はボクのものですね」
観月は恍惚とした表情で東雲を見下ろした。観月のものはグズグズに溶け切った東雲の中で、はちきれんほどに熱く大きくなっていた。
逃げられぬようにと腰を掴む手の力はなおも強く、グボグボと大きくピストンしては何度も東雲の中に出し入れし、乱暴に挿入される感覚に東雲は何度も腰を跳ねさせた。
その律動は次第に余裕なさげに容赦なく彼女の奥を暴いた。
「あっ…出る…っ中に出しますよ…」
「だ、めぇ…」
「ほら、全部飲んでください…」
ぷくりと大きく腫れ上がった亀頭を彼女の子宮口にぴったりと密着させ、観月は容赦なく精を発した。
「ああっ熱、い…」
ドクドクと、脈打つように吐き出されたそれは、東雲のなかに注ぎ込まれ、その胎を熱く満たしていく。
射精のあいだ、観月はまたもや東雲に長いキスをした。
絡まる舌と、彼のものかも自分のものかもわからなくなった唾液の味、滴るお互いの汗でうっすらと湿度の上がる室内に、東雲の思考は朦朧としていた。
今起きていることは全て夢で、この身体の倦怠感もぼんやりした頭も、知る由もなかった観月の内面すらも、夢の中の妄想ならいいのに…。
東雲がぐったりとベッドに項垂れていると、観月がグラスに水を汲んで戻ってきた。
「香織さん、水です。いま身体を拭いてあげますね」
観月の声は甘やかすように優しかった。
冷たいグラスを受け取り、中身をごくごくと飲み干せば、観月は満足げに微笑んだ。
「はい、よろしい」
グラスを受け取り、どこからか持ってきた濡れたタオルで東雲の身体を優しく拭き始めた。
その手つきは丁寧で、綺麗好きの彼らしい正確さで東雲の肌を清めていった。
先程までの、異様なまでに執拗でねちっこく、普段からは考えられない獰猛な目つきをしていた彼の姿は見当たらなかった。普段通りの観月に戻っているのを見て、東雲は思わず涙ぐんだ。
「はじめくんの、ばか」
水桶でタオルを絞っていた観月は、その言葉にふっと微笑んだ。
「怒ってます?」
「怒ってなんかないわ」
「でも、僕には怒っているようにみえますよ」
観月の声色は優しく、小さな子どもをあやすように柔らかかった。
それが余計に、東雲の猜疑心をあおった。
「はじめくんがわたしのこと、そんなふうに見てたなんて思いもよらなかったから」
観月はいじけるように足元のシーツを握っている東雲に寄り添うように、ベッドの端に腰掛けた。
「そもそも貴女は無防備すぎるんですよ」
彼女の細い首筋を観月の華奢ながら大きな手のひらが包んだ。
「こんな薄着で、男を寝室に招き入れるなんて…。ボクも男なんですから」
東雲は少し反省したように俯いた。たしかに、彼の言い分はもっともだった。
そして何より、おそらく最初に彼を好きになったのは自分の方だった。彼の大胆な行動のひとつひとつが、全て嫌じゃないどころか、妙に嬉しいのは、自分もまた彼を好いているからだ。そのことをきっと彼はよくわかっている。それがただ恥ずかしくてたまらない。
観月は俯いたままの彼女の顎をクイと持ち、ふたたび彼女の唇に口付けた。
その口づけは、もう今までのような辿々しさや必死さとは無縁のものに思えた。
なぜなら、2人はもう、恋人同士だからだ。
観月は左腕の中に東雲を招き入れた。
一見華奢に見える彼の身体は、美しく鍛えられていて、その胸板に頬を寄せればずっしりとした質量を感じられた。
東雲が彼の胸の中でゆっくり目を閉じようとした時、観月がぽつりと言う。
「でも、ボクも共犯です」
これにはうたた寝しかけていた彼女も思わず目を見張る。
「今日はこんな大嵐になるとわかっていてこの家に来たんですから」
「え?そうなの?」
「台風が近づいていることくらい、朝のニュース番組を見ていればわかりますよ」
涼しげな表情で、悪びれるでもなく飄々と告げる彼には流石の東雲も絶句した。
「はじめくんの行動がどこまで素で、どこからが企てなのか、わかんなくなってきちゃった」
へなへなと疲れたように彼女が目を瞑ると、観月は愛おしげに彼女の頬にかかった髪を撫でた。
「…間違いなく言えるのは、ボクは計画にないことはしないということと、貴女を愛しているということだけです」
そんな甘いセリフと屈託なく言ってのける観月とは裏腹に、東雲はすこし難しい顔をした。
「もう。その『愛してる』っていうの、とっても厄介だわ」
「何故?」
「いろんなことを忘れそうになるから」
観月がさも釈然としない、とばかりに怪訝な顔をすれば、東雲はうっすらと微笑んだ。
彼はまだ若い。ピンとこなくても無理はなかった。
「自分の年齢や、わたしがここにいる理由や、いろんなこと」
「忘れたっていいじゃないですか」
観月は胸の中の彼女を抱きしめた。外は依然として轟々と強い風が吹き荒れている。
「ふたりきりでいる時は、ボクのことだけを考えていればいいんです」
ベッドに横たわり身を寄せ合う二人の体は熱かった。窓も開けられず、電気は止まっており、部屋の中は汗ばみそうに湿度があった。
それでも観月は東雲を離さなかった。
「香織さんはとても綺麗です」
観月は東雲の長い髪に唇を寄せ、細い腰に手を回し、彼女のアイスグレーのシルクガウン越しにつたわる柔らかな曲線を優しく撫ぜた。
「こんなにも誰かを美しいと思ったのはあなたが初めてなんです」
ここで力尽きました!!
需要がありそうであればまたいつか書くかもしれません!!