キャロルの女王はちょっと気怠げ

とにかく今年のクリスマスの計画は万全だった。

決死の予約戦争を潜り抜け、夜景が評判のホテルと併設のフレンチレストランを予約したし、ずいぶん昔にフリマデートで話したウワサのペアリングも運良く用意できた。

実は、高校を卒業してからの2年間は――イベントだ撮影だテレビだと仕事に追われて、思うように彼女とロマンチックなクリスマスデートができていなかった。

クリスマスなのにちゃんと時間作れなくてゴメンって謝れば、彼女はいつもあっけらかんとして「お仕事が忙しいのは良いことだよ!」って明るく笑ってくれてたけど。

でも、俺は嫌だった。世界一大好きで、ずっとそばにいたい人と一緒にいられないクリスマスなんて。

今年こそは絶対に、ロマンチックなクリスマスにしてみせる。

俺はそんな決意を胸に、喫茶アルカードの扉に手をかけた。
アルカードの扉には趣味のいいシンプルなクリスマスリースが飾られていて、店内にもクリスマスらしいポインセチアや針葉樹を使ったスワッグが吊り下がっていた。

そしてなにより。

「いらっしゃいませ」

サンタコスチューム風のエプロンにサンタ帽をかぶったこの店の看板娘――もとい、俺の彼女が映画のヒロインさながらに、今日もまぶしい笑顔を浮かべて俺を店に迎え入れてくれた。

俺は心の中の動揺を覆い隠すようにほんのりと微笑を浮かべ「ブレンドひとつ。あと、おすすめを」とカウンターにいる彼女に告げて、定位置に腰掛けた。

早朝の喫茶アルカードには、客がほとんどいなかった。

店内のBGMも控えめで、さわやかな朝日と、店のまえの公園を散歩する人の穏やかな表情、鳥の声、木々のざわめき…そんな清々しい雰囲気が店を包み込んでいた。

「実くん、今日の撮影午後からだよね?ずいぶん早いからビックリしちゃった」
彼女がブレンドと季節限定の淡雪モンブランを手際良くテーブルに並べながら言った。

「ん。サンタの限定コス、今日からでしょ。あんたのカッコ、ニワカ連中より早く拝みたいからさ」
大学生になってから可愛さも色気もマシマシのうちの彼女には、熱心なファンが大勢いるらしい。
正直なところ、最近はすこし奴らの存在が目に余っていた。

けど、俺の心境などゆめゆめ知らない彼女は、ぽっと頬を紅く染めている。
「そ、そんなのいつでも見せてあげるのに…」
胸元でトレーをぎゅっと抱きしめて、困ったようにうつむいてしまった。
かわいそうだから、これ以上いじめるのはやめてあげたい。
だけど、俺だけに見せてくれるそういう顔、本当はもっと見たいんだ。
「じゃ、今度存分にみせてもらおうかな――」
俺がいじわるな笑みを浮かべて追い討ちをかけはじめたその時、カランカランと店のドアのベルが鳴った。

ベルの音に続いて、ぱたぱたと忙しない足音がこちらに近づいてきた。
「Nanaくん!」
それは俺の事務所の専属マネージャーだった。
普段から綺麗にしているひとなのに、今日は髪を振り乱して慌てた様子だ。
俺が呆気にとられていると、相手はこちらが口を開く前に話し始めた。
「よかった、電話がなかなか繋がらないから、ここかなっておもったの。…それより、スゴい仕事の依頼が来たから、いち早くNanaくん…いえ、7♡coさんに伝えなくちゃと思って」
「え?」
しかも、7♡coのほうに?
あまりに突然の出来事で、思考がうまく追いつかない。
「落ち着いて聞いてね。ヴァレンシアの専属アンバサダーになってくれないかって依頼が来てます」

ヴァレンシアはその時々のトレンドに合わせた専属アンバサダー「ミューズ」を立てて大々的なブランディングをすることでも有名なハイブランドだった。

「レディースの服やアクセサリーをメインで、とのことだけれど、先方としてはもっとジェンダーニュートラルなスタイルに挑戦したいらしいの」
「…それで、お声がかかったのが、俺…と」

マネージャーの話によれば、専属アンバサダーになることでファッションモデルの登竜門ともいうべきショー、パリコレの次回の秋冬コレクションに参加できるらしかった。
そして、アンバサダー就任のお披露目イベントが、今年の12月24日――クリスマスイブの夜に、はばたき市のスカイラウンジで行われる、ということらしい。

これは確かに異例の大抜擢だった。
世界を代表するハイブランドのチャレンジングな試みに自分をモデルとして起用してもらえたこと、それがどれだけ誇らしいことかもわかっていた。
けれど俺は突然真っ暗な谷に突き落とされたような気分になってしまった。

だって今年は。今年のクリスマスは。
世界一大切な人と一緒に過ごす予定なのに。

「めちゃくちゃ光栄なことだって、わかってます。でも…その日はどうしても、行かなきゃだめ、ですか」
気づけば俺はそんな言葉を口走っていた。
普段は事務所のスケジュールを最優先に考え、現場に遅刻や欠席なんて一度もしたことのない俺がこんなことを言うのは相当意外だったらしく、マネージャーは狼狽えていた。
「何か大事な予定が入ってた…?でもね、わかってほしい。これはNanaくんがモデルとしての今後のキャリアを考えていく上でこれ以上ないくらいの仕事なのよ」
マネージャーの意見はもっともだ。自分が本当に子どもっぽいことでゴネてるのもわかってた。
だけど、自分と彼女の問題は、俺の人生でもっとも重要なトピックであることは変わらないのだ。

俺がうまく返事できないでいると、たたた!と誰かがこちらのテーブルに駆け寄ってきた。
この様子を遠巻きに見ていた彼女だ。

「あの、お仕事の話に横槍入れて、本当にごめんなさい。…でも、ひとつだけ言わせてください」
彼女はぺこりとお辞儀したあと――真剣な表情で、まっすぐ俺を見た。
「Nanaくんが気にしてるの、わたしとの約束のことだよね。わたしはこのお仕事、受けて欲しいって思ってるよ」
「でも…」
躊躇う俺の手を、彼女がぎゅっと握った。
「チャンスを掴んで。わたしのことなら、大丈夫だから」
ね?と首を傾げて微笑む彼女は、やっぱり天使みたいに可愛かった。

そんな彼女と今年も一緒にクリスマスを過ごせないことを思うと、俺はまた胸の奥がちぎれそうになった。

***

Nanaはともかく、7♡coがモデルやタレントとしてここまでの地位を確立できたのは、生みの親である姉貴の着眼点の独創性と、俺自身の自己プロデュースの賜物だった。

それは事務所も認めるところで、たとえどんなに有名なメイクアップアーティストやスタイリストがつく大きな仕事でも、事前に綿密な打ち合わせをして当日のメイクやスタイリングのイメージをすり合わせるようにしている。

明日はその打ち合わせの日。
俺は最終調整の意味も込めて、当日のドレスに合わせたメイクとヘアスタイルを彼女にチェックしてもらうために、化粧台に向かっていた。

実のところ、俺はこの仕事が楽しみな反面――強い不安を感じていた。
多様な価値観が受け入れられやすい時代になったからといって、ハイブランドの顧客層にはきっと昔ながらの価値観を持ち続けている大人が大勢いるはずだ。
そんな世界で、俺は受け入れてもらえるのだろうか。

そして、俺は今まで、いくつかの顔をその時々に応じて使い分けてきた。
あるときは、新進気鋭のファッションモデルNanaとして。あるときは、ミステリアスな女性モデルの7♡co、そして、ごく普通の冴えない高校生、七ツ森実として。
この多面性を、いったいいつまで貫くのか――年を重ねるにつれ、そんな疑問が自分の胸の内に沸々と湧き上がってくるようになっていた。
いつかそれを自分が貫けなくなったとき、世間は、みんなは、俺を認めてくれるだろうか。

「…できた」
メイクも髪も完璧だった。
ドレスは当日までないから、同じブランドの系統が近いセットアップを着た。
俺は、漠然とした憂鬱を取り払えないまま、彼女の待つリビングに向かった。

彼女はリビングのソファで本を読んでいた。
「ど、かな?」
ドアが開くと同時に彼女はこちらを見た。
そして、俺の姿を確認するなり、どんな映画のヒロインよりも魅惑的な微笑みを浮かべ、「素敵!」と歓声を上げた。

彼女の微笑みとその言葉だけで、強張っていた心がみるみるほどけていく。
単純かもしれない――でも、これは彼女だけが使える魔法だ。

彼女はいつもこんなふうに俺を見つめていてくれた。
Nanaでも7♡coでもない、みんなが知ってる「七ツ森実」でもない。
その奥にある、たったひとつの俺の心を。

***

あの仕事が決まった日、彼女は自分のことみたいに報せを喜んでくれた。
俺があのブランドの香水やジャケットを常日頃から愛用していることを覚えていたのだ。

「すごいすごい、ずっと実くんの憧れのブランドだったもんね?」
帰り道も、終始こんな調子で興奮気味に彼女が繋いだ手をぶんぶん振り回しながらしゃいでいるので、俺はクリスマスイブを彼女と過ごせない憂鬱も、未知の世界に飛び込む不安すら、その時だけは忘れていられた。

そういえばマネージャーも、アルカードから帰る間際に、俺に向かって耳打ちした。
「Nanaくんの彼女、素敵ね」
綺麗にマスカラを塗られた彼女のまつ毛が意味深にウインクした。
「そ…すか?」
「Nanaくんは恋人の存在をあんまり隠そうとしないでしょ。最初は人気商売なのにいいのかしらって思ってた…でも、今はその理由がわかった」
それだけ言い捨てて、じゃ、また撮影で。と、彼女は颯爽と店をあとにした。

当の彼女はそんな経緯などつゆ知らず、心底楽しそうに俺の顔や髪を観察していた。

「わあ、ヴァレンシアのファンデ、わたしも気になってたんだ。すごく綺麗なツヤだなぁ」
「7♡coちゃんのときにそういうコーラル寄りのリップつけてるのって、新鮮かも!」
「ねえねえ、目頭にちょこっとだけこのグリッター塗るのは?」
彼女は自分の化粧ポーチから取り出してきたらしいグリッターを手にとって、俺の顔を覗き込んでいる。

「ん、じゃあ少し塗ってみようかな」
「わかった。じっとしててね」
ごく真剣な表情でグリッターを塗ってくれている彼女の口元はふわりと微笑みをたたえていて、無造作に耳もとにかけられた髪さえも、あふれる透明感と、健康的な艶っぽさを際立たせていた。

「…できた」
きゅ、と彼女がグリッターの蓋を閉め、俺の頬に手を伸ばした。
「本当に綺麗…」
うっとりと彼女が俺の顔を見つめている。
「妖精の国の女王様みたい」
彼女は身を乗り出して、俺の肩に手を置いたまま、眩しそうに目を細めた。
その表情は付き合う前の高校時代からずっと変わらないようでいて――今の彼女が纏う雰囲気にはつかみどころない妖艶さが隠れていた。

「ありがとう」
自分の口から出た声は掠れていた。
ふいに顔をのぞかせた彼女の色香に意表をつかれたのだ。

ソファに座っている俺の膝の上に彼女が身を乗り出す体勢のままでいたこともあって――俺はしだいに腹の中にどろどろとした欲求が溜まっていくのを感じていた。

クリスマスのイベントで着るドレスに合わせたメイクを施した自分は、たしかにたおやかな美しい女の顔をしているかもしれない――けれど、その肉体は確かに男だ。

俺は耐えきれず、丁寧に塗ったリップが取れるのも厭わずに目の前の彼女に口付けた。
彼女は一瞬目を見張ったが、すぐに目を閉じて俺の唇を受け入れた。

どれだけそうしていただろうか。
唇を離した時には自分が化粧をしていることなどすっかりわすれてしまうほど長いキスだった。

俺は彼女の耳元でささやいた。
「このまま…いい?」
彼女の着ているニットの裾に手を滑り込ませると、彼女はちょっと戸惑ったような顔で言った。
「えっ…でも、せっかくのメイクと髪、くずれちゃうよ…」
心配そうに俺の襟足の髪にそっと触れる。
「いーよ。どうせすぐ取っちゃうんだから。…それより今は、あんたを抱きたいの」
だめ?と念押しの目線を送れば、すこし気まずそうな目と目が合った。
彼女はおずおずと首を縦に振る。

彼女とのあいだに流れていたこのうっすらとした緊張感は、お互いが服を取り払ったあとも漂い続けていた。

「…いや、だった?」
俺が彼女の顔を覗き込めば、彼女は驚いたようにぶんぶんと首を振った。
「嫌なわけないよ!ただ、目の前の実くんがあんまり綺麗で、ドキドキしちゃって…」
ぱっと紅く染まった顔を見て、俺は「なんだそんなことか」と安堵のため息を漏らした。

窓辺に溢れる木漏れ日が、彼女の真っ白な肌のうえできらきらと踊り、きめ細かな肌艶がぽわっと虹彩を放っている。

「あんただって、妖精みたいにキレイだよ」

俺はだんだん、裸で向かい合ったままドギマギしてる自分たちが可笑しくなって吹き出した。
「俺ら、もう付き合って長いのに、何やってんだろ」
「ふふ、そうだね」

そして俺たちはまたどちらともなくキスを交わし始めた。

柔らかく、こわばった肌を溶かすように、彼女の首筋から胸、お腹へと唇を這わせていく。
彼女はときおりくぐもった声を漏らし、びく、と肌を震わせた。
俺の唇についていたルージュが、彼女の真っ白な身体中にキスマークを散らした。

基本的に人の肌に傷や痕をつけることを厭う性分なので、彼女にキスマークをつけることは今までなかった。
だから、自分のキスの痕跡が人の肌に色濃く残り続けるエロチックさを、俺はこの時初めて知った。

「あんたの全身、俺のキスだらけ」
意図せず、嬉しそうな声が出た。
彼女は目を伏せてそっと胸元についたそれに触れた。
「…実は、ずっとつけてって言おうか迷ってた」
彼女の口から出た言葉に、俺は目を丸くした。
「え?つけて欲しかった?」
「うん…リップじゃなくて、吸う方、のキス」
彼女は恥ずかしそうにそっぽを向いて、手のひらで顔を隠してしまった。
「…そっかそっか」
えも言われぬ幸福感と征服欲が、胸の奥にじわりと広がる。
彼女にここまで言わせておいて、ご期待に沿わないのは男が廃るってもんでしょ。

俺は、さて、どこにキスマークをつけたものか――と考えた。
首などの人目につきやすい場所は言語道断。
おまけに彼女は肌を見せるニット、例えば大きく胸元の開いたもの、肩がちらりと見えるものをよく着ていたし、背中の開いたドレスやクロップドトップスを着ることもあった。

俺はすこし悩んだ末、彼女の下腹にそっと手を置いて、シワひとつない綺麗な肌に唇を寄せた。
唇で少しだけ肌をすまむ。
そのままぎゅっと食めば、ツヤツヤと光沢のある彼女の身体に紅く花びらのような印が散った。
「ココなら人に見られないでしょ?」
言いながら、俺はその印にそっと舌を這わせた。
「俺だけの場所だから」

彼女ははっと息を詰まらせてこちらを見ていた。
俺が不敵に笑って見せれば、瞳を潤ませて「もう」とはにかんだ。
俺はそのゆるんだ唇にふたたび口づけて、やわこい舌の感触を味わい――片手をそっと彼女の秘部に伸ばした。

そこはすでに充分な潤いを帯びていた。
「…すごく、濡れてる」
驚き半分、嬉しさ半分に俺がつぶやくと、
「言わないで」
彼女は困ったように眉をひそめ、また横を向いてしまった。
「興奮しちゃった?」
そっと耳もとで囁き、熱く蕩けそうな中をくちゃくちゃとかき混ぜれば、彼女ははしたなく声を上げた。

「だって…実くんが、あんまり綺麗で」
身体を震わせて、彼女は続けた。
「それなのに、実くんはやっぱりいつもの実くんなの…」
目尻に溜まっていた涙がハラリとひとすじ流れ、俺はそれをそっと拭った。

俺たちは鼻先がくっつくほどの至近距離で見つめあっていた。
「ね…愛してる」
そっとささやけば、彼女の荒い息から、輪郭のぼやけた言葉がこぼれ落ちた。
「わたしも…あいしてるよ…」
再び唇を塞ぎながら、もうどちらの唾液の味かもわからなくなった互いの舌を絡ませ合う。
彼女の中はすでに溶けきっていて、果てるたびに痙攣し俺の指をきつく締め付けた。
「いい?」
合わさった唇はそのままに、言葉を続ける。
「も、早く、あんたのナカに入りたい…」
気持ちは急いていた。
そんな俺を悟ってか、彼女が潤んだ瞳のままうなずいた。
「うん…来て」

俺はベッドサイドボードの抽斗を開けて、中にしまわれているコンドームをガサガサと手当たり次第に引き摺り出した。
ずるりと繋がったコンドームをひとつちぎって、残りを無造作にサイドテーブルに投げ置いた。

焦ったくて心が急いて、指が絡れる。けれど、なんとかコンドームを装着することができた。
正直、こんなに焦ってる自分が滑稽だ。
だけどもう、1秒たりとも待てない。

「挿れてい?」
低く、甘く溶けるような声が出た。
それを聞いた彼女は、熱に浮かされたような顔でゆるりと微笑んだ。

みちり、と先端が彼女の中に沈んでいくと、彼女はびくびくとまた身体を震わせた。
「痛くない?」
熱い吐息の漏れる彼女の口もとが、はくはくと動く。
「ん…きもち、いよ…」
俺は彼女の額にへばりついている髪の毛をそっと指で退けてやり、瞼に口付けた。

このままゆっくりと、時間をかけて彼女に負担をかけないように進めよう――俺がそう思って注意深く体制を整えたそのときだった。
彼女が俺の腰をそっと掴んだ。
「もっと、ふかく入って…」
彼女はそう言って腰を浮かせ、恥ずかしげに頬を上気させてこちらに目配せした。
腰の角度が変わって、彼女と自分との間に隔たる抵抗はほぼゼロに等しく、とろとろになった彼女の奥に思わず吸い込まれそうになる。

戸惑ってフリーズしている俺に、彼女はまた追い討ちをかけるようにささやいた。
「実くんに、めちゃくちゃにされたいの」
ただでさえ気が狂いそうなほど心地よいのに、こんな痴態を見せつけられて――あと一歩のところで俺に理性的な振る舞いをさせていた最後の砦が、崩壊した。

「ああ、もう!」
いつも、こうやって彼女にぜんぶ掻き乱されるんだ。
こっちはもっともっと、ゆっくり、優しく、丁寧に抱きたいって、思ってるのに!

「どうなっても知らないから」
そう言ってズブ、と腰を容赦なく進めれば、彼女が甘い声をあげた。
「う、あ…」
ズン、腰を打ち付ければ、最奥に到達する。
彼女の薄くて小さい身体が心配になるけど、もう抑えが効かない。
数えきれないほど抱いた身体だから、気持ちいいところは手に取るようにわかっていた。
彼女の弱点を追い詰めるように腰を打ち続ける。

されるがままに喘いでいた彼女の頬に、ポタリと俺の額の汗が落ちた。

それを感じ取った彼女がうっすらと目を開ける。
「実く…好き、だよ…」
息も切れ切れに言い、すべすべの手のひらが俺の首筋を撫ぜた。
俺は何故だか泣きたくなって、彼女をぎゅっと抱きしめた。

「もう、このままずっと、あんたとこうしていられたらいいのに」

それから間もなく彼女が果てた。
少しのあいだ彼女を休ませたあと、彼女の身体を抱きかかえて俺の身体に跨らせた。

「ん、んん…」
自重で深くなる抽送に彼女が眉をしかめた。
「痛い?」
俺がまたもや心配になって訊けば、彼女は困ったように――そしてどこか悪戯っぽく微笑んだ。
「気持ちよすぎて、おかしくなりそう」
「――そりゃ、良かった」

ああ、気がヘンになりそうなのはこっちだよ。
イッたばっかのあんたに無理させたくないし、痛い思いもさせたくないし、怖がらせたくない。
だけど俺だって男だし、本当は本能のままにあんたを抱きたいって思ってる。

だから、ちょっとした仕返しのつもりで、俺は言った。
「ベッドに手、ついて」
彼女は素直に従った。
「腰、浮かせて」

俺の命令に従う彼女の目にはすこしの戸惑いが隠れていた。
けれど、俺は質問をする暇すらも与えずに、彼女の細いウエストを掴んで、ぱちゅんと腰を突き上げる。
「ああ゛っひ、ぐぅ…」
強い快感が身体中を駆け抜け、彼女は目を白黒させた。
「きもちー?」
俺は彼女を見上げながらちょっと不敵に笑ってみた。
もちろん、絶え間なく彼女の中に腰を突き上げながら。
そんな俺に、彼女が必死にしがみついている。
「や、だぁ…もうだめっ…だめなの…」

彼女の真っ白な身体が揺さぶられている。
瞳は潤み、胸がゆさゆさと上下し、ときおり腰が物欲しげにゆるくうねった。
「あーエッロ…絶景…」
耐えきれず本音がこぼれ出た。

彼女はそれから何度か達して、身体を痙攣させた。
次第に疲れてきたのか、
「も、無理だよ…」
と言ってへなへなと俺の胸の中にへたり込んできた。
「疲れちゃった?」
俺が彼女を抱きとめて背中をそっと撫でれば、
「実くんのヘンタイ」
と彼女はむくれた顔で、きっとめちゃくちゃニヤケ面をしているはずの俺の頬を指で優しく摘んだ。
「ゴメンゴメン。いじめすぎたわ」

それから何度目かもわからないキスを繰り返しているうちに、とうとう我慢の効かなくなった俺は彼女の中でゆっくりと果てた。

長い射精のあいだ俺たちはぎゅっと絡み合ったままお互いの荒い息が鎮まるのを待っていた。
彼女も俺も、肌が汗ばんでいる。
この後シャワーでも浴びようか?そんな質問を投げかけようとした時だった。

きゅるる、と彼女のお腹が鳴った。
「…おなか、すいちゃった」
彼女は特に恥ずかしがるでもなく、ポカンとした表情で言った。
俺はそれがちょっぴり可笑しくて吹き出した。

「そうだな。何が食べたい?」
「うーん、オムライス、かな」
「いいね。作ろう」
「卵、まだあったかな?」

そんな会話を続けながら、俺はズルリと彼女の中から抜け出して、彼女はいそいそと下着を身につけ始めた。
着替えもそこそこに、彼女は薄いワンピース姿のままスタスタとキッチンに向かう。

俺は、彼女と過ごす時間の刺激的なときめきが、こんなふうに温かくて穏やかな日常に溶け込んでいく瞬間が好きだった。

いっそのこと彼女も部屋で暮らして、ずっとずっとそばにいられたらいいのに――俺は頭の片隅でそんなことを考えながら、まな板の上で野菜を刻んでいる彼女を隣で眺めていた。

***

ショーの本番はすぐにやってきた。

眩いフラッシュの雨。
シャンパンカラーに輝く大きなシャンデリアに、酔いそうなほど濃い匂いを放つ百合の生花をあしらったグリーンセット――今まで見たことのないほどラグジュアリーに設られた会場。

「7♡coさん!こっちに目線ください!」
「SNSのインフルエンサーからハイブランドのアンバサダーという異例の大抜擢となった今のお気持ちをお聞かせください!」
「ヴァレンシア・サガン氏との2ショットお願いします!」

カメラマンや記者の要望に応え、華やかな来賓の言葉に耳を傾けていたら、あっという間にイベントはすぎていった。
今日の7♡coは確かに完璧だった。
会場の誰しもが彼女の美しさを称賛し、すべての視線を独り占めしていた。

だけど、ひとり楽屋に戻った俺は、どっと疲労が押し寄せてくるのを感じて、ソファーにどかりと腰掛け項垂れた。
「つ、かれたぁ…」
そんなぼやきのあとに、しんみりとした夜の静けさが続く。
俺はなんだか虚しくなって、窓の外を見た。

スカイラウンジのあるショッピングセンター前の大広場には大きなクリスマスツリーがあって、サンタさんが子どもたちにプレゼントを配っていた。
若いカップルが、その様子を楽しげに写真に収めたり笑いあったりしている。
「はは…」
口から乾いた笑いが漏れた。

夢を追いかかけて空ばかりをみてちゃ、道端に咲いているキレイな花に気づけない。
ずいぶん昔、高校生の頃のデートで俺が彼女に言った言葉だ。
俺は今、空ばっかり見ていやしないだろうか。
ふたたび大きなため息をつく。

そのときだった。
楽屋の扉がコンコン、と控えめにノックされた。
「はーい、ドウゾ」
俺は居住いを正し、ノックに答えた。
きっとマネージャーあたりが今後についての連絡事項を伝えにきたのだろう――そう思っていた俺は開いたドアから現れた人物に度肝を抜かされた。

「こんばんは、喫茶アルカードの特別配達サービスです」
そこに立っていたのは、ミニスカサンタ。…の、格好をしてアルカードのケーキボックスを手にしている俺の彼女だった。

「なんで、ここに?」
驚きのあまり、7♡coの姿をしていることも忘れて大きな声が出た。
「シフト上がりに、アルカードのクリスマス限定ケーキを差し入れに来たの。本当は受付で預けて帰ろうかと思ったら偶然GORO先生に会って、『あら、この子は関係者だワ』って」
彼女は首から下げられている「PRESS」カードをチラリと見せる。
なるほど、確かに先生は今日のイベントの来賓として呼ばれていたし、彼女もはばチャ編集部の関係者だ。
「さっすがはばチャネットワーク、侮れない」
俺の脳裏には先程のイベントで旧友のヴァレンシア・サガンと熱い抱擁を交わしているGORO先生の姿が蘇っていた。

「…で?そのカッコでここまで来たの」
俺が彼女のミニスカサンタに言及すると、彼女は照れ臭そうに、スカートの裾をつまんだ。
「これは、店長が…着ていった方が喜ぶだろうって」
「はは。店長もGORO先生も、マジで俺らのキューピッドだな」

暗く静かに沈んでいたこの楽屋の空気は、キューピッドたちが連れてきてくれた小さなサンタさんの存在によって、あっという間に明るくなってしまった。
とりあえず、楽屋の入り口で佇んでいる彼女を楽屋に迎え入れる。
シュトレン、冷蔵庫に入れておくね?と彼女がいそいそと差し入れをしまいはじめる横顔を眺めながら、俺の頭には一つの妙案が浮かんでいた。

せっかく彼女がここまで来てくれたのだ。
ディナーもゆったりとしたホテルのベッドもないけれど――ここには美しい夜景がある。
今日はこのあと会場でそのままレセプションパーティが開かれる予定になっていた。
だから俺はドレスのままで、会場の花やシャンデリアもそのままだ。

「あのさ――今からちょっとだけ、時間くれない?」
俺の言葉に彼女はキョトンとしていた。
けど、俺は構わずカバンの中の小さな箱を取り出して、彼女の手を引きエレベータへと駆け出す。

「ちょ、ちょっと、どこいくの?」
10、20、30…とどんどん階数の上がるエレベータの表示を見つめながら、彼女が不安そうにしている。
「さて、どこでしょう」
チン、と音がして、エレベータの扉が開く。
シャンパンゴールドのシャンデリアとはばたき市の臨海地区の夜景に彩られたスカイラウンジには誰もいなかった。

「…きれい」
彼女は目の前の光景に圧倒されていたのか、言葉少なに窓の外の景色を見ていた。
「気に入った?」
俺は彼女の手を引いて、ステージへと近づいていく。
「うん、とっても。実くんはこんな素敵なところでお仕事したんだねえ」
すごいな、と微笑む彼女は嬉しそうだったけど、どことなく寂しそうにも見えた。

植物のグリーンセットが鬱蒼とはりめぐらされているステージに、彼女を連れ立って上がれば、俺たちの背景にははばたき市を一望できる展望デッキが、目の前には豪奢なシャンデリアが輝いている。

「あのさ」
俺は彼女と向かい合い、その両手を取った。
「今年もクリスマスイブに一緒に過ごせなくて、ゴメンな」
彼女は首を横に振った。
「ううん…いいの」
結局、押しかけるようにして会いにきちゃったしね、と困ったように笑っている。

ひょっとしたら、彼女はここに来たことを俺の邪魔になったと思っているのかもしれない。

それで俺は、彼女にありったけの思いを伝えたいと思った。
さっき彼女が楽屋に現れたとき、俺がどんなに救われたか。
そして、今日をどんなに、彼女と一緒に過ごしたいと思っていたかを。

だけど、やっぱり自分の中に芽生えたこの大きな感情を、シンプルに伝える言葉は、何度考えても、ひとつしか思い浮かばなかった。
本当は、こんなに突然伝えるべきものじゃないのかもしれない。
だけど、彼女と過ごすうちに日に日に堪えきれないほど大きくなっている、この気持ちを表す言葉はたったひとつしかない。

俺は彼女の手を取ったままおもむろに彼女の前に跪き、その手の甲に額を寄せた。
「み、実くん…?ドレス、シワになっちゃうよ」
彼女が慌てて俺を立ち上がるように促した。
「いい。今から言う言葉には、必要なことだから」
「えっ…?」
驚いている彼女に、手に持っていた小箱を差し出した。
彼女はそれを見るなり、はっと息を飲んだ。

俺はまっすぐに彼女を見た。
「俺と、結婚して」
その言葉を聞くなり、彼女の目からははらはらと涙が溢れた。
「ほんとに…?」
その声は震えていた。
「もちろん」
彼女を安心させたくて、ぎゅっと手を握る。
「わたしで、いいの…?」
「あんたがいない生活なんて、俺にはもう考えられないよ」
俺の答えに、彼女は濡れた瞳のまま微笑を浮かべ――そっとキスをしてくれた。
「…結婚してくれる?」
キスの後、俺はもう一度聞いた。
「喜んで」
彼女は花のような笑みを溢した。

俺は、小箱を開けて彼女の左手にリングをそっとはめた。
「ダイヤがついてなくて、ゴメンな」
それは今度一緒に買いに行こう、と言えば、彼女は涙に濡れた頬のままで、目を瞑ってリングにそっと口づけた。
「ううん…そんなの関係ないよ。だってこれは、実くんがわたしだけのために用意してくれた指輪だもん」
ずいぶん昔に教えてくれたペアリングのこと、まだ覚えててくれてたんだね――そう言ってまた彼女は天使みたいに微笑んだ。

そんなやりとりをしていたときだった。

パン!パン!ポン!
――と、なにかが弾けるような軽快な音が会場に鳴り響いた。
それに続いて、なにやらぞろぞろと人影が続く。

「トレビア〜ン♡ なんて美しいのかしら!」
聞き覚えのある声に、俺たちは顔を見合わせる。
「美しきミューズとキュートなサンタガールの密やかな結婚式…とっても素敵だワ♡」
「GORO先生…」
隣の彼女が呆気にとられている。

花椿吾郎先生の隣には、俺が就任したブランドの創設者であるヴァレンシア・サガン――そして撮影スタッフ、マネージャーまでもが後ろに控えている。
なぜだか皆それぞれに手元に開封済みのシャンパンボトルや花束、グラスを手にしていた。
さっきの音の正体はシャンパンボトルだろう。

「アタシ、7♡coちゃんたちがエレベータに乗ったのコッソリ見てたの」
そういって彼は得意げにウインクした。
「ど、どっから聞いてたんすか…あ、じゃなくて、どこからお聞きになってたんですか?」
思わず、7♡coの姿であることも忘れて素が出る。
「ほぼ、最初からです…」
サガンの背後に控えていた通訳のお姉さんが申し訳なさそうに言った。

「どうしよう…まずいことになっちゃったかな?」
彼女が不安そうに、こそこそと耳打ちした。
「いや…まあ、こんな状況下でプロポーズした俺が悪かったのは間違いないな…」

俺はこの状況をどうすべきか迷っていた。
7♡coが女じゃないことは、公にはされていなかったがファッション業界ではほぼ暗黙の了解としてみんなが知っていたし、俺は特に恋人を作ることに制限もかけられていなかった。
おまけに目の前の吾郎先生もサガンも、シャンパンをグラスにそそいでハイテンションに何やらはしゃいでいる――まあ、フランス語だから、何を言っているのかよくわからないけど――少なくとも、よくない方向には受け取られていないことは間違いなさそうだ。

俺は、腹を括ることにした。どのみち、いつかは周知されることだし。
彼女の肩を抱き、俺はまっすぐ群衆に向き直った。
「では、改めて紹介します。ファッションモデルの7♡coであり、Nanaでもある――私、七ツ森実は――」
そこまで聞いて、隣の彼女がぎょっと俺の顔を見るのがわかった。
無理もない。
だって、俺がいろんな顔をもっていると言う秘密を、こんな長年に渡ってずっと一緒に守ってくれたんだもんな。
俺は不安げな表情の彼女に笑いかけ、続けた。
「この人と結婚することになりました」

途端、ステージ下の群衆は(主に吾郎先生とサガンが)また大きな歓声をあげた。
マネージャーだけが、ちょっと驚いた顔でおろおろしていた。
これはさすがに、後でしっかり謝っておく必要があるな…。

一方、赤くなったり青くなったりしながら隣で俺の宣誓を聞いていた彼女は、興奮気味にステージに上がってきた吾郎先生から持たされたグラスに並々とシャンパンを注がれているうちにまた自然と笑顔に戻っていった。
俺がほっとしてその様子を眺めていると、吾郎先生は俺にもシャンパングラスを持たせてくれた。

少しして、俺たちをサガンの通訳が呼び止めた。
「あの、サガンがおふたりにお話があるそうです」
これには流石に俺もドキリとした。
なんとなく場の雰囲気で切り抜けたような気分になっていたけれど、クライアントから見て今回の一件はいったいどう思っただろう――俺はやや緊張の面持ちでサガンに向き合った。
彼は人の良さそうな笑顔のまま、なにか長々と語った。
それを聞いて、一緒にいた吾郎先生は彼の言葉に「あらま!」と驚いた表情を浮かべた。

通訳によれば、
「ブランドのプロデュースも兼ねて、おふたりのウエディングウェアをデザインしたいと考えています」
ということらしい。
俺たちはまたもや不測の事態に顔を見合わせた。
「え…それってつまり?」
「お二人のウエディング姿を撮影させて欲しいのです。もちろん、ドレスもタキシードも、可愛らしいサンタドレスの彼女と7♡coさん用に2着ずつお作りします」

俺は言葉を失った。
だってあのヴァレンシア・サガンが俺たちのブライダルウェアをオートクチュールで製作すると申し出てくれているのだ。
やりとりを遠巻きに見ていた事務所のマネージャーが小躍りしているのが視界に入った。
「アン♡ ドレスもタキシードも2着ずつ…まさに新しい時代のブライダルね。はばチャとしても、全力でバックアップさせてもらうワ」
吾郎先生も上機嫌に身体をくねらせている。

「え、えっと…わたしも撮影するんですか?」
ずっと黙って聞いていた彼女が、困惑の表情を浮かべた。
そんな彼女の背中を、吾郎先生がパンと叩いた。
「なーに怖気ついてるのよ!ここはもう、はばチャのキャリー・ブラッドショーになったつもりで、ドーンと構えてなサイ!」
きゃりー?と首を傾げる彼女に、「んモウ!SATCくらいちゃんと観てなさいよ!」と吾郎先生がムキになっているのを眺めながら、俺もサガンもマネージャーも、そこにいる全ての人が笑っていた。

***

それから半年後の6月。
俺たちは母校のはばたき学園の敷地内にある小さなチャペルで結婚式を挙げた。

チャペルは相変わらずこじんまりとしていた。
だけど、その結婚式は何もかもが普通じゃなかった。
オートクチュールのウエディングウェア、そして複数回のお色直し。
そして会場中にしかけられたはばチャ撮影スタッフのカメラ。

おまけに、人気ファッションモデルNanaの電撃結婚は世間に一時のセンセーショナルな話題を提供し(しかし一方で、知人たちの間では彼女が学生結婚することの方がよほど衝撃を与えたようだ)、オートクチュールのウェディングドレスを身に纏ったNanaを目の当たりにしたすべての人々が、彼と7♡coが同一人物であるということを知ったのだ。

「ゴメン…こんなに忙しない式になっちゃって」
あのプロポーズをきっかけに彼女を色んなことに巻き込んでしまった。
俺は彼女に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
けれど、ヴァレンシアのウェディングドレス姿でまばゆいオーラを放つ彼女は、この世の誰よりも魅力的だ。
「ううん。最初は緊張したけど、とっても楽しいよ」
彼女はまた天使みたいに微笑んだ。

俺はそんな彼女の笑顔に励まされながらも、やっぱり申し訳なさを感じずにいられなかった。
「俺が今いる世界は――こんな忙しない場所なんだ」
彼女はうつむいている俺の顔をのぞきこみ、「わかってる」と目を細めて笑った。

カランカラン、とチャペルの鐘が盛大に鳴り響く。
「でも、俺がここまで来れたのは、あんたのおかげ。あんたがずっとそばにいて、俺の中の揺るがないものを、ずっと見つめてくれてたから」
俺は微笑み続ける彼女にそっと手を差し出した。
「愛してる。だから、これからもずっとそばにいて」

俺たちはお姫様と王子様のステンドグラスを背景に、扉の外へと歩み出て――参列客からのフラワーシャワーに祝福されたのだった。